西閣夜
西閣の夜るの様子を述べる。大歴元年。近体詩。

恍惚寒江暮。    恍惚たり寒江の暮
逶迤白霧昏。    逶迤として白霧昏し
山虛風落石。    山 虛しくして風 石を落とし
楼静月侵門。    楼 静にして月 門を侵す
撃柝可憐子。    撃柝 可憐の子
無衣何処邨。    無衣 何処の邨
時危関百慮。    時危くして 百慮 関す
盗賊爾猶存。    盗賊 爾 猶を存せり

○江, 宋本作山,今従詳註本。
『老子』 恍兮惚兮。
『賀若弼・詩』 更鼓臥聞風落石。

詩語解
[恍惚] あるかないかのさま,暮色暗昧の状態。
[逶迤] うねるさま。
[山虛] 山空しく,「虛」とは物無きをいう。「物」とは草木の葉の類,
[風落石] 岸壁の地,風に吹かれて石が落ちる音がするさま。
[月侵門] 月光が門内に浸入して来る。
[撃柝] 盗賊を防ぐ夜番の柝を打ち鳴らすこと。
[可憐子] 「子」は男子をいう。
[無衣] 寒くなったが,着るべき衣なきこと。
[関百慮] 我が百慮,之に関するをいう。
[爾] 「爾」は盗賊を指す。「猶存」はまだ滅亡せずに存在していることに,深く歎息する。

詩意
朧にうっとりよ寒天mの江水が暮れてゆく。うねうねと,白い霧が暗く閉ざす,山は草木も無く,風が石をガラガラと吹き落とす。楼は高くしずかに立つていて,月の光が門内へ侵入して来る。ヒョウシギ(柝)を打つ音がする,寒天の中で可憐な子供が打つが,着る衣類が無く困っている村もある,どこの村であろうか。時世が安泰でないので色々の事がらに,自分の心配がひっかかる。盗賊どもよ汝等は未だに滅亡もせずに存在しているのか。



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