公安県懐古
公安県でむかしの三国時代の事を想い作詩したもの。大暦三年秋の作。

野曠呂蒙営。    野は曠し 呂蒙が営
江深劉備城。    江は深し 劉備が城
寒天催日短。    寒天 日の短かきを催す
風浪與雲平。    風浪 雲と平かなり
濯落君臣契。    濯落なり 君臣の契
飛騰戦伐名。    飛騰す 戦伐の名
維舟依前浦。    維舟 前浦に依る
長嘯一含情。    長嘯 一に情を含む

詩語解
[呂蒙営] 公安県北二十五里にあり,呂蒙が兵を駐屯していた所。蒙は呉の孫権の武将。
[劉備城] 公安の城をいう,孱陵城ともいう,孫権,劉備を推して左将軍・荊州牧とし,油口に鎮させ,時人備を号して左公と為す。故に其の城を「公安」と名付ける。
[濯落君臣契] 劉備の君臣をいう,「濯落」はさらり,さっぱり。」のさま。
[君臣契] 劉備,関羽・張飛を得て兄弟の交わりを結び,諸葛亮を得て水魚の交わりを結ぶ,をいう。
[飛騰戦伐名] 呂蒙についていう
呂蒙が皖城を破った時,軍士みな騰躍して登る,呂蒙が廬陵の賊師を虜にするや,孫権,「其の百鳥も一鶚では無いという」即ち此の戦伐に飛騰の名がある所以である。

詩意
呂蒙の営在ったところには,原野がひろく横たわり,劉備が居たという城の傍には江が深く横たわっている。今,寒天の日影が詰まりつつある,風浪は雲と斉しい様に高く起こっている。思えば,劉備等の君臣の契りは瀟落なものであった。
呂蒙は飛騰する戦伐の名をあげたものだ。私は前浦に寄り添うて舟を繋ぎ,こんな事を考えて長嘯している。


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