観李固請司馬弟山水図  三首之一

方丈渾連水。    方丈 渾て水に連り
天台総映雲。    天台 総て雲に映ず
人間常見画。    人間 常に画を見る
老去恨空聞。    老い去って空しく聞くを恨む
范蠡舟偏小。    范蠡 舟 偏に小
王喬鶴不群。    王喬 鶴 群ならず
此生随萬物。    此の生 萬物に随う
何路出塵氛。    何れの路か 塵氛を出でん

詩語解
[方丈] 神仙の居る山の名。蓬莱,方丈,瀛州の此の三神山は渤海の中にあって、諸々の仙人と不死の薬とがあり,宮闕は黄金白玉を以て造られている。と言う伝説による。
[天台] 山の名。浙江省天台県の北に在り,仙霞嶺脈の東の支脈だり,西南は括蒼,歴蕩,に接し,西北は四明,金華に接している。東海の濱に沿うて蜿蜒し,衣の縁のようである。北に石橋があり,長さ数十丈,両嶺の間を渡り,古より飛仙の居る所と言い伝へられている。漢の劉晨,元肇の二人が天台山に入って薬を採り,二人の女子に遇って,留まること僅か半年,家に帰り見れば已に七世を経過したとの事であった
[范蠡] 人の名。春秋戦国時代の楚の人。越に仕えて,越王勾踐と共に呉を滅ぼし,会稽の恥を報いた。
併し 「大名の下は以て久しく居り難し,且つ勾踐は共に憂いを同じくし,共に安に處り難し。」と言って軽宝珠玉を装い,舟に乗り海に浮かび,終に反らず,斉に往き姓名を変じ,自から鴟夷子皮と謂い,隠れて海畔に耕し,財産富みすること,数千萬,後,陶に止まり,自ら陶朱公と謂い,名を天下に成し陶に老死した。

[塵氛] 世間の煩わしきこと。

詩意
此の絵画を見ると方丈の神山は水に浮かび,天台山は雲に聳えている。人間の悲しさはこれらの仙境に行く事が出きず,老いて画を見て神仙の話を聞くばかりである。画の中には范蠡の乗ったと思はれる扁舟もあり,王喬が乗ったと思はれる鶴もいる。回顧すれば自分は一生涯世間の物事に引きずられて,何時この煩累から逃れることが出来ようか。

鹵莽解字
此の題は三首の,「唐詩選」第二番目に録す。描く處は海上仙山の図で,自家境遇上に感慨を発し世乱を厭うて,仙遊を想い詩にしたもの,首句に画中の山水を出し,突兀の気勢を示す。方丈天台の神仙の棲む所の山は雲に映じ,水に連なり,之を望むことは出来ても行く事は出来ないと前聯。
老年に到り,只だ画を見て思いを馳せる。「人間」・「老去」の詩語は自分の東西南北に流浪して,風塵の中の没頭して,志を逹することが出来ない事を悲しむもので,最後の句と照応する伏線になっている。

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