秋 野 ・五首
秋の田野についてのべた詩。大暦二年秋の作。

  五首之一
秋野日疏蕪。    秋野 日に疏蕪
寒江動碧虛。    寒江 碧虛に動く
繋舟蠻井絡。    舟を繋ぐ 蠻の井絡
卜宅楚村墟。    宅を卜す 楚の村墟
棗熟従人打。    棗熟して 人の打つに従せ
葵荒欲自鋤。    葵荒れて 自ら鋤かんと欲す
盤飧老夫食。    盤飧 老夫の食
分減及渓魚。    分減及渓魚

詩語解
[疏蕪] 荒れること,収穫後の野原の荒涼たる景色をいう。
[碧虛] 天のこと。
[蠻井絡] 蠻方の井絡の土地,井絡は星の名前,井絡星の在る所が蜀の地方に当たる。昔から蜀の土地を,井絡の分野という。
[楚村墟] 楚の村里。
[葵] 一種の菜。
[盤飧] 盤はお膳,飧は夕飯のこと。

  五首之二
易識浮生理。    識り易し 浮生の理
難教一物違。    一物をして 違はしめ難し
水深魚極楽。    水深うして 魚 楽を極め
林茂鳥知帰。    林茂って 鳥 帰るを知る
衰老甘貧病。    衰老 貧病に甘じ
栄華有是非。    栄華に 是非 有り
秋風吹几杖。    秋風 几杖を吹く
不厭北山薇。    厭はず北山の薇

詩語解
[浮生理] 浮生は人生の定まりのないことをいう。「[浮生」の語は「荘子」に見える。生物存在の理。
[有是非] 昨是今非,定在なき、を言う。
[几杖] 肘掛けと,杖, 月令に「養衰老。授几杖。」とある。几杖は老いを言う。
[北山薇] 北山の薇(わらび)。 山薇は貧を言う。

    五首之三
礼楽攻吾短。    礼楽 吾が短を攻める
山林引興長。    山林 興を引くこと長し
棹頭紗帽側。    頭を棹へば 紗帽 側き
曝背竹書光。    背を曝せば 竹書 光る
風落収松子。    風落 松子を収め
天寒割蜜房。    天寒 蜜房を割(さく)く
稀疎小紅翠。    稀疎なり小紅翠
駐屐近微香。    屐を駐めて 微香に近づく

詩語解
[礼楽] 礼儀音楽,儒者の尊ぶもの。
[攻吾短] 自分の短所,欠点を責め付ける。
[棹頭] 行儀の悪きこと。
[竹書] 書物のこと,古代には竹簡に字を書いていた,こと故,言う。
[松子] まつのみ。
[蜜房] 蜜を貯めた蜂の巣。
[稀疎] かそけきさま。
[小紅翠] 小さな紅や緑の草花。
[屐] 今風に言えば,下駄のこと。
[微香] 草花の微かな香り。


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