小漢食舟中作
題義] 寒食の最後の日,舟中でよんだ詩。大暦五年,潭州での作。

佳辰強飲食猶寒。     佳辰 強飲すれば 食猶を寒し
隠几蕭条戴鶡冠。     几に隠りて蕭条 鶡冠を戴く
春水船如天上坐。     春水 船は天上に坐するが如く
老年花似霧中看。     老年 花は霧中に看るに似たり
娟娟戯蝶過間幔。     娟娟たる戯蝶は間幔を過ぎる
片片軽鴎下急湍。     片片たる軽鴎は急湍を下る
雲白山青萬余里。     雲白く山青く萬余里
愁看直北是長安。     愁へて看る直北は是れ長安なるを

詩語
[小漢食] 寒食は冬至後一百四日・五日・六日の三日をいう。小寒食は,其の翌日,寒食の前後三日間,火をたくことお禁じる。
六日の翌日は清明なり,始めて新火あり。
[佳辰] 寒食の節句をさす。
[隠几] 几に依る。『荘子・斉物論』 南郭子棊という者が,几に依り坐して,天を仰ぎ歎息した
[鶡冠](かつかん) 鶡は雉の類。その尾を飾りにした隠者の冠り物。昔,楚の國の深山に隠者あり,鶡冠を冠っていた。
[天上坐] 春の水が満ちて,水と天とが一つになったような感じがすること。
[霧中看] 視力が衰えて,おぼろげに見えること。
[間幔] (かんまん),ひっそりとした船のまんまく。
[直北] 正北を言う。

詩意
今日の佳節に,無理に酒を飲んでみたが,しょくもつはまだ昨日の寒食の続きで冷たい。私は脇息によりかかって,侘びしく,雉の帽子を着けて坐っている。春の水は満ち溢れて,船は天上に浮かんでいる様だ,老衰の眼に映る花は,霧の中で見ているようで,朧に見える。美しい蝶々は戯れながら,船の静かな,まんまく,を過ぎて行く,あちら,こちらに散らばって浮かぶ鴎は,軽やかに早瀬を下ってゆく。遙か彼方を見渡せば雲は白く,山は青く,萬余里も遠く,あの正北の方向にこそ,長安は在るのだなと,私は愁いながら眺めている。
  
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