過洞庭湖

洞庭湖をすぎたことを読んだ詩。大暦五年夏,北帰の塗につきしころ。白沙駅・青草湖のあたりか。

蛟室囲青草。    蛟室 青草に囲まる
龍堆隠白沙。    龍堆 白沙に隠れる
護堤盤古木。    堤を護して 古木 盤まり
迎櫂神鴉舞。    櫂を迎え 神鴉 舞う
波浪南風正。    波浪 南風 正しく
回穡畏日斜。    穡を回せば 畏日 斜なり
湖光與天遠。    湖光 天と遠し
直欲泛仙槎。    直ちに 仙槎を泛んと欲す

詩語解]  
[蛟室] 蛟人の室。作者(杜甫)は江湖を看て屡々多く鮫人,鮫綃等の詩語を使った詩がある。例せば,
別唐十五誡。因寄礼部賈郎。(唐十五誡に別れる。因って礼部の賈郎に寄せる)。
[囲青草] 青草のために包囲される。
[龍堆] 沙堤をいう,もと塞外の砂漠丘をいう。龍堆「明一統志」岳州府の條に言う,金沙州,一名は龍堆,延裘数里,杜甫が詩に,「龍堆隠白沙」。とあり,と言う。
「清一統志」いう,金沙州は巴陵県南にあり,一名龍堆,と。仇兆鰲氏は此の金沙州を龍堆に当てる?之によれば,岳州を過ぎし詩となる。
[隠白沙] 白沙に隠れる。「隠」字一作擁。
[護堤] 堆は龍堆,この句は白沙を承ける。
[迎櫂] 舟の櫂をむかえる。この句,青草を承ける。
[神鴉] 祠頭の鴉,いずれの祠かは不明。 
[南風正] 南風が正しく北に向かって吹く。
[回穡] 船を北へ向け代える。
[畏日] 夏の太陽。「左伝」n,夏日は可畏,冬日可愛とみえる。
[泛仙槎] 貫月槎の故事有り。

詩意
青い草は鮫人の室を囲み,また白い沙は龍堆の堤をかくしている。古木は盤屈して,沙堤を護るが如く,神鴉は舞いつつ吾が船の櫂を迎える?南封は浪を破って正しく吹き,怖ろしく暑い夏の太陽は北帰の帆柱の当に斜めにかたむいた。湖面を見渡せば水ひかりは天と共に遠い,自分は之を観て直ちに仙人の筏を
うかべたいと思う。


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