Recent paper 3

消化器科,27(5) 571-576, 1998

A CASE OF ESOPHAGEAL MALIGNANT MELANOMA TO WHICH SELF-EXPANDING METAL STENT WAS EFFECTIVE

Hironori TOKUMO, Yasumasa ASAMOTO, Masahiro ITO, Hironao KOMATSU, Kunio ISHIDA1), Haruki MATSUMOTO2)

The Third Department of Internal Medicine, Hiroshima General Hospital, Hiroshima, Japan

Correspondence should be addressed to
Hironori Tokumo, M.D., Ph.D. The Third Department of Internal Medicine, Hiroshima General Hospital, 1-3-3, Jigozen, Hatsukaichi-city, Hiroshima 738, Japan
Tel:81-829-36-3111, Fax:81-829-36-5573

Abstract
We report a case of malignant melanoma of the esophagus treated with self-expanding metal stent (EMS). A 70-year-old Japanese man was admitted to our hospital, complaining of a progressive dysphasia. Preliminary laboratory data showed no abnormality except slight increase of CRP and LDH. Tumor markers were normal. A barium meal examination revealed brain fold-like appearance of lower two thirds of esophagus. Esophagoscopy revealed gray to dark blue colored esophageal mucosa with diffuse swelling. X-CT demonstrated the stenosis of the esophageal lumen caused by the tumorous thickening of the esophagus. Lymphnodes of mediastinum, paratrachea, left supraclavicle and upper abdomen (No. 3, 7, 11) were swollen by the invasion of the tumor. The biopsy specimen showed the infiltrate growth of the tumor cells which contain dark brown pigment (melanin) in their cytoplasm. Immunohistochemistry demonstrated focal areas that stained positive for the S-100 protein. From these findings, he was diagnosed as the malignant melanoma of the esophagus with no indications of surgical treatment. After getting informed consent, he was treated with EMS (Ultraflex). The treatment improved his dysphasia and Quality of life (QOL), then he discharged our hospital. This is the first case report of esophageal malignant melanoma treated with EMS. We conclude EMS was effective to improve the QOL of the patient.

Self-expanding metal stents (EMS) が有効であった食道原発悪性黒色腫の一例

徳毛宏則,浅本泰正,伊藤雅啓,小松弘尚,石田邦夫,松本春樹

〒738
広島県廿日市市地御前1-3-3
厚生連 廣島総合病院 消化器内科

はじめに
食道の原発性悪性黒色腫は稀な疾患である.今回われわれは,食道の通過障害を主訴とした食道原発悪性黒色腫の1例を経験した.初診時すでに手術適応になく,QOLの向上を目的にEMSを施行した.その結果,経口摂取量も増加し在宅療養が可能となった.EMSが有用であった食道原発性悪性黒色腫について報告し文献的考察を加える.
症例
患者:70歳,男性.主訴:嚥下時つかえ感.既往歴:昭和60年,くも膜下出_.平成7年,脳梗塞.脳_管障害後遺症のため軽度の歩行障害あり.家族歴:特記事項なし.現病歴:平成9年7月頃より嗄声出現.8月10日頃より次第に嚥下障害出現したため8月19日に近医受診した.近医にて内視鏡検査施行し,食道の狭窄を認め精査加療目的で当科に8月20日入院した.入院時現症:身長160cm,体重54.6kg.貧_,黄疸なし.胸腹部に著変なく,表在リンパ節,触知せず.皮膚,粘膜に異常なし.検査成績:CRP 3.61mg/dl,LDH 716IU/l以外には異常なし.なお,CEA 1.9ng/ml,SCC 0.4ng/mlと正常範囲内であった.食道造影所見:機械的狭窄部位はなかったが,中部〜下部の食道に脳回状に腫大した粘膜の隆起を認めた.粘膜表面は平滑で,ポリープ状の隆起は認めなかった(Figure 1).上部消化管内視鏡検査:中部〜下部の食道に粘膜の著明な腫大を認めた.境界は比較的明瞭で,色調は主に黒色調一部灰白色を呈し,境界から周囲の正常粘膜に黒色病変がしみ出しているように見えた(Figure 2).病変の肛門側は胃内に達していたが少し離れた位置に黒色調病変が衛星状に散布していた(Figure 3).生検を施行したが,比較的柔らかい印象であった.胸腹部CT検査:食道Iu以下Eaまで著明な全周性の肥厚を認め内腔は狭小化していた(Figure 4).上縦隔,気管周囲,胸骨前,左鎖骨上リンパ節および腹部3,7,11番リンパ節の転移腫大を認めた.また,気管や左房への浸潤も疑われた.内視鏡時生検所見:食道を被覆する扁平上皮下に異型性の強い中等大の腫瘍細胞が小峰巣を作りながら増殖していた(Figure 5).腫瘍細胞内および間質には褐色の色素顆粒を認め,これらはFontana - Masson染色にて陽性のメラニン顆粒であった(Figure 6).腫瘍細胞は立方形ないし短紡錘形で明瞭な核小体を持っており,細胞質および核内にS-100蛋白陽性像を認め,黒色腫細胞であることを確認した.他に原発巣がないこととも合わせて食道原発悪性黒色腫と診断した.経過:当科受診までに経口摂取が極度に低下し,栄養状態の悪化が認められた.入院後も経口摂取がほとんど不能なことから中心静脈栄養(IVH)を施行した.広範なリンパ節転移や周辺臓器への浸潤など,すでに手術適応にないことから,QOL向上を目的として,患者および家族と相談のうえ9月17日EMSを留置した.実際には,拡張径18mmで長さが10cmと15cmの2本のUltraflex (Boston Scientific Japan K.K.)を中央部で約2cm重ねて病変部の全長にわたって拡張するように留置した.留置後の食道造影では,stentは良好に拡張しており通過障害は認めなかった(Figure 7).留置前ほとんど不能であった経口摂取量が留置後約60%まで改善したため9月27日退院し在宅療養となった.なお,放射線療法を追加したが,腫瘍縮小効果は得られなかった.10月23日,両側反回神経麻痺によると思われる呼吸困難により緊急入院,翌日(EMS留置後38日目)に死亡した.剖検は施行できなかった.
考察
食道原発悪性黒色腫は1906年Bauerらの報告1)以来欧米を中心に140例余り2),本邦においても1960年三辺の報告3)以来120例程度の報告があるにすぎず4),非常にまれな疾患である.現在までの報告例から本症の臨床像を検討すると以下のようである2,5,6,7,8).発症年齢は50〜60歳代の男性に多く,その男女比はおおよそ2:1となっている.部位は食道中部から下部に多い.形状は広基性の隆起性病変を呈していることが多く,硬度は柔らかく,色調は黒色〜暗青色,灰白色を呈している.自覚症状は嚥下困難がもっとも多く腹痛や胸部不快感の訴えもある.予後はきわめて不良で平均生存期間は7〜12ヶ月と報告されている. 本例では初診時すでに広範にリンパ節転移を認め,また縦隔への浸潤・転移のためと思われる反回神経麻痺を呈していた.その内視鏡像は田久保らの述べる通り6)黒色調の粘膜像を呈し,食道主病変や胃粘膜転移巣では病変境界部に特徴的な黒色調のしみ出し像を呈していた.また,食道は全体的に浮腫状に隆起し,粘膜自体は比較的柔らかかったが内腔は狭く送気による内腔拡張は不良であった.このことは,扁平上皮下を側方へ腫瘍が浸潤していた病理像と一致する.このような理由から蠕動運動も不良となり食物の通過に際してはさらに問題となるものと考えられた.
一方,食道におけるEMSは,手術適応のない悪性狭窄に対して患者のQOLを向上させる有力な方法として近年臨床の場において高い評価を得てきている9,10,11).そのほとんどは食道癌による機械的狭窄に対して行われている.本例は食道原発悪性黒色種という稀な悪性腫瘍であるが,すでに手術適応になく,食べることへの欲求を満たし在宅療養が可能となることなど患者のQOL向上を目的として,患者および家族と相談のうえEMSを施行した.MEDLINEおよびJMEDICINEで検索し得た限りでは,本例はEMSを施行した食道原発悪性黒色種としては第1例目の報告である.前述したとおり,食道悪性黒色種は比較的柔らかい腫瘍であり末期まで食道の通過障害が発現しにくいと考えられる.実際,症状が出現したときはすでに手術適応にないことが多い.このような場合に有効な治療法が確立されていない現在,QOL向上をめざしたEMSは良い対処法と考えられる.本例の場合,かなり広範囲の上皮下腫瘍浸潤があり,食道内腔拡張不全に加え蠕動運動の欠如とも相まって食物の通過障害が発現したものと考えられた.このように機械的な狭窄のみでなく機能的な異常による通過障害に対してもEMSは有用であった.EMS施行後に食事の摂取量が100%にはならなかったのは,通過障害が残っていたのではなく,一連の嚥下運動の障害のためと考えられた. EMS本来の目的は患者のQOLの改善である.本例ではEMSにより食事摂取がある程度確保できIVHを抜去し退院,短期間ながら在宅で生活ができた.このような点から,EMSは高く評価されてよいものと考えられた.
結語
稀な疾患である食道原発悪性黒色種の1例を報告した.手術適応にないため,患者のQOLの改善を目的にEMSを施行した.その結果,食事摂取の改善が認められ在宅療養が可能となり,あらためてEMSの有用性が高く評価された.
稿を終えるに当たり,病理組織像についてご教示いただいた廣島総合病院 病理研究検査科,台丸裕先生に深謝いたします.
文献
1)Baur E.: Ein Fall von primaren Melanom des Oesophagus. Arb. Geb. Path. Anat. Inst. Tubingen, 5: 343〜354, 1906. 2)Sabanathan S. Eng J.: Primary malignant melanoma of the esophagus. Scand. J. Thor. Cardiovasc. Surg., 24: 83〜85 1990.
3)三辺武右衛門,太田 昇,吉浜博太:食道悪性黒色種の1症例.日気管食道会報, 11: 340, 1960.
4)石後岡正弘,山崎左雪,平尾雅紀,ほか:食道原発悪性黒色種の1例.胸部外科, 50: 413〜415, 1997.
5)銭谷 明,松本秀一,石岡知憲,ほか:食道原発悪性黒色種の1例.Gastroenterol. Endosc., 36: 2422〜2430, 1994.
6)田久保海誉:悪性黒色腫.食道の病理,第2版,総合医学社,東京,1996, p.219〜225.
7)Stranks G.J., Mathai J.T., Rowe-Jones D.C.: Primary malignant melanoma of the esophagus: Case report and review of surgical pathology. Gut, 32: 828〜830, 1991.
8)Chalkiadakis G., Wihlm J.M., Morand G., et al : Primary malignant melanoma of esophagus. Ann. Thorac. Surg., 39: 472〜475, 1985.
9)Cwikiel W., Stridbeck H., Tranberg K-G., et al : Malignant esophageal strictures: Treatment with a self-expanding nitinol stent. Radiology, 187: 661〜665, 1993. 10)Vermeijden J.R., Bartelsman J.F.W.M., Fockens P., et al : Self-expanding metal stents for palliation of esophageal malignancies. Gastrointest. Endosc., 41: 58〜63, 1995.
11)大川信彦,藤田力也:食道狭窄の内視鏡に関する欧米の動向.消化器内視鏡, 3: 1563〜1568, 1991.
Figure legends
Figure 1. 食道造影所見.中部〜下部食道に脳回状に腫大した粘膜を認める.
Figure 2. 食道内視鏡所見.病変部は主に黒色一部灰白色を呈した食道粘膜の腫大として認められる.
Figure 3. 胃内視鏡所見.病変は胃内におよび,その辺縁には黒色の転移巣が衛星状に散在している.
Figure 4. 胸部CT所見.食道壁は著明に肥厚し内腔は狭小化している.
Figure 5. 食道内視鏡時生検所見(20倍,HE染色).食道扁平上皮下に異型性の強い腫瘍細胞が充実性に増殖している.
Figure 6. 食道内視鏡時生検所見(200倍,Fontana-Masson染色).腫瘍細胞および間質にFontana-Masson染色陽性のメラニン顆粒を認める.
Figure 7. EMS留置後の食道造影所見.stentは良好に拡張し造影剤が速やかに胃内に流入している.


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