高青邱詩集  (乾之部)(坤之部)  石九鼎の漢詩館

高啓(1331〜 1370)字は季迪。明代初期の詩人。元末の戦乱を避けて(上海郊外)呉淞付近の青邱に閑居し、青邱子と号した。 詩話・高青邱

   逢呉秀才復送帰江上。(呉秀才に逢い復た江上に帰るを送る)(七言絶句)
江上停舟問客縦。   江上 舟をとどめ客縦を問う
乱前相別乱余逢。   乱前 相別れ乱余に逢う
暫時握手還分手。   暫時 手を握り還た手を分つ
暮雨南陵水寺鐘。   暮雨の南陵 水寺の鐘

(江上に舟を止めて,お互い流浪した旅の跡はどうだったかと聞く。乱前に別れ,乱後の今,回り逢い,暫く手をとって,又わかれた。暮雨がシトシトと降っている。南陵から鐘の音が江上をさびしく渡ってくる。)


  尋胡隠君              (五言絶句)
渡水復渡水。  渡水を渡り,またを渡る
看花還看花。  花を看,また花を看る
春風江上路。  春風 江上の路 
不覚到君家。  覚えず 君が家に到るを

  題雲林小景            (五言絶句)
帰人渡水少。  帰人,渡水を渡ること少し
空林掩煙舎。  空林,煙舎を掩う
獨立望秋山。  獨立,秋山を望む
鐘鳴夕陽下。  鐘,鳴って 夕陽は下る

  秋声                 (五言絶句)
砧韻雑鳴蛩。  砧韻,鳴蛩を雑え
梧辺雨帯風。  梧辺,雨は風を帯ぶ
千声秋作意。  千声,秋,意を作り
都入夜窓空。  都て夜窓に入って空し

(砧を打つ音に,こおろぎの鳴く音が交じり桐の木のある軒に,雨は風を帯びて吹きつけている。いろいろんの音は,いずれも秋の想いを起こさせる,すべて窓に入って一層寂しい思いを増す。

  春思                 (七言絶句)
愁兼楊柳一絲絲。   愁は楊柳を兼ねて一つに絲絲たり
客舎江南暮雨時。   客舎,江南,暮雨の時
自入春來才思減。   春に入ってよりこのかた才思を減じ  
杏花開過不題詩。   杏花,開き過ぎるも詩を題せず

(春の愁いは楊柳の絲のように長く続いている。江南の客舎に獨り雨に暮れようとしている。春になってから詩才は一層減じた思いがする,もう杏花は開き過ぎたのに,まだ詩を作ることができない。)

  聞笛              (七言絶句)
横吹纔聴涙已流。   横吹わずかに聴いて 涙已に流れる
寒灯照雨宿江頭。   寒灯,雨を照らして江頭に宿す
憑君莫作関山曲。   君に憑って関山の曲を作す莫れ
乱世人人易得愁。   乱世の人人 愁を得やすし

  立雪堂             (五言絶句)
堂前参未退。   堂前に参じて未だ退ぞかず
立到雪深時。   立って到る雪深き時
一夜山中冷。   一夜 山中冷かに
無人惟自知。   人なくて惟だ自を知る

(立雪堂中の高僧に参じて退出しないで立つていると,雪は深くなってきた。山中の一夜は冷たい。寒氣が骨に徹する思いがする。此こは誰も居ないので獨りで悟りの道に入ることが出来た)

  西寺晩帰          (五言絶句)
遠寺別僧帰。   遠寺,僧に別れて帰る
随鐘出煙嶺。   鐘に随って 煙り嶺を出る
犬吠竹林間。   犬は竹林の間に吠える
斜陽見人影。   斜陽,見人影を見る

  聞鐘               (五言絶句)
日暮遠鐘鳴。   日暮れて遠鐘鳴なり
山窓宿鳥驚。   山窓、宿鳥を驚かす
楓橋孤泊処。   楓橋 孤泊の処
曾聴到船声。   曾て船に到るの声を聴く

  梅塢          (五言絶句)
春暗花如雪。   春は暗くして花は雪の如く
難遭落漠魂。   遭い難し落漠の魂
空林酒醒処。   空林 酒 醒める処
月堕客敲門。   月は堕ちて 客 門を敲く

  春日懐江江上          (七言絶句)
一川流水半村花。    一川の流水 半村の花
旧屋南隣是釣家。    旧屋の南隣は是れ釣家
長記帰蓬載春酔。    長に記す帰蓬、春の酔を載せ
雲籠残照雨鳴沙。    雲は残照を籠め 雨は沙に鳴る

  臥雲室               (五言絶句)
夕臥白雲合。    夕に臥せば白雲は合し
朝起白雲開。    朝に起きれば白雲は開く
唯有心長在。    ただ心 長へにあるあり
不随雲去来。    雲の去来に随がわず

(雲中に獨居する高僧が夕暮れ時、臥雲室に臥していると白雲は合して室を覆い、朝起きると白雲は開いて朝日がでる。高僧の心は安住の悟りの道に入り,雲の去来するが如く変わることは無い)

  江村即事    (七言絶句)  
野岸江村雨熟梅。   野岸 江村 雨 梅を熟す
水平風軟燕飛回。   水 平らかにして風軟らかく燕は飛回する
小舟送餉荷包飯。   小舟 餉を送る荷包の飯
遠旆招沽竹醴杯。   遠旆 招いて竹醴の杯を売る

(野岸の江村は雨中に梅が熟している。水は平に風はやわらかで燕が飛び回っている。小舟で蓮の葉に包んだ弁当を運んで来る。遠くに翻っている酒屋の旗は客を招いて,竹葉酒を売っている。誠にのどかだ

  梅花九首 (一)   (七言律詩)
瓊姿只合在揺臺。   瓊姿 只だ合に揺臺に在るべし
誰向江南処処栽。   誰ぞ江南に向い処処に栽えたる
雪満山中高士臥。   雪は山中に満ちて高士臥す
月明林下美人來。   月明の林下 美人來る
寒依疎影蕭蕭竹。   寒は疎影に依る 蕭蕭の竹
春掩残香漠漠苔。   春は残香を掩う 漠漠の苔
自去何郎無好詠。   何郎去ってより好詠なく
東風愁寂幾回開。   東風 愁寂 幾回か開く

(玲瓏たる玉のような姿をした梅花は揺臺の仙宮にあるべきなのに
誰がこの梅の木を江南の処処に栽えたのだろう
梅花が咲くと雪が山に降り真っ白に見える。この時には袁安が大雪に会って独り草屋に臥していた。洛陽の知事が袁安のことを心配して,雪を掘った故事から高士が梅花の雪中に臥しているように思われる

月明らかな時には趙師雄が仙人の住むところの羅浮にやってきて,林下に眠れば一女性に会った。芳香 人を襲う美人であった。そこで相共に酒を酌み,醒めれば梅花の大樹下に横たわっていた。言う故事から美人來るは梅花のこと。

竹は蕭蕭として寒中に梅枝の疎影により添っている。春は名残の香をかくして苔が一杯についている。
楊州の東閣に梅花を賞賛した何遜が死んでから梅に就いて好い歌詠は世上に出ていない。

ただ毎年の東風が愁いを帯びて吹くので梅の花は何回となく開き,また散ったのであろう。


  送賈麟帰江上   (七言絶句)
別涙紛紛逐断猿。   別涙 紛紛として断猿を逐う
貧交無贈只多言。   貧交 贈なく只だ多く言う
離愁正似靡蕪草。   離愁は正に靡蕪の草に似たり
一路随君到故国。   一路 君に随って故国に到るべし

(別の涙ははらはらと落ち,悲しい猿の一声を逐って旅に行く,貧賎の交わりには何も贈り物はなく,ただ孔子が弟子の子路に言った語の「君に贈るには言を以ってせよ」の別の言だけだ。離愁は恰も靡蕪の草を当帰の草と言うように,一路君に随って故国に帰ってください。

  送呂郷     (七言絶句)
遠汀斜日思悠々。   遠汀の斜日 思い悠々たり
花払離觴柳払舟。   花は離觴を払い 柳は舟を払う
江北江南芳草遍。   江北 江南 芳草遍ねし
送君併得送春愁。   君を送って併せて春愁を送り得たり

  過保聖寺    (七言絶句)
隔江煙霧隠楼台。   江を隔てる煙霧 楼台をかくし
遠逐鐘声放艇來。   遠く鐘声を逐うて 艇を放ち來る
乱後不知僧已去。   乱後 知らず 僧 已に去るを 
幾堆紅葉寺門開。   幾堆の紅葉 寺門開く

  宮女図 (七言絶句)
女奴扶酔踏蒼苔。    女奴 酔を扶けて蒼苔を踏む
名月西園侍宴廻。    明月 西園 宴に侍してめぐる
小犬隔花空吠影。    小犬 花を隔てて空しく影に吠え
夜深宮禁有誰来。    夜は深く宮禁に誰か来たるあり

(宮女によって酔うた身を助けられ,青い庭の草を踏む。また月も明かるい西園の宴に侍して廻る。小さい犬が花影から人影に吠えている。これは,この宮園に来る人があるからだろう。

   画 犬 (七言絶句)
獨児初長尾茸茸。    獨児 初めて長じて尾茸茸
行響金鈴細草中。    行く行く金鈴を響かす細草のうち
莫向瑤階吠人影。    瑤階に向って人影に吠える莫れ
羊車半夜出深宮。    羊車 半夜深宮を出ず

  新月       (五言絶句)
繊繊掛柳西。   繊繊として柳 西に掛かり
斜影低窺閣。   斜影 低く閣を窺う
黄昏難久看。   黄昏 久しく看難し
初生是将落。   初めて生ずる是れ将に落つるころ

  吐月峰      (五言絶句)
四更棲鳥驚。     四更 棲鳥は驚き
山白初上月。     山 白くして初めて月は上る 
起開東閣看。     起って東閣を開いて看れば
正在雲峰(缶夬)。   正に雲峰の(缶夬)にあり

  夜雨江館写懐    (七言絶句)
愁解尋人不得辞。   愁いを解くには人を尋ねて辞するを得ず
小窓疏竹雨來時。   小窓 疏竹 雨來る時
江湖今夜全家客。   江湖 今夜 全家 客たり
猶勝瓢零両処思。   猶を瓢零して両処に思うに勝れり

(愁いと言うものは人を尋ねるに似て,また人の尋ねることを断ることも出来ないのにも似ている。まばらに生えた竹のある小窓の下に雨のかかる時に愁いは尋ねて来る。そして今夜私の一家は皆でお客になっている。おちぶれ,かけ離れて,両所に別れて互いに思い合うのに比べると,一家すべてがお客になっているこの江館の方が,まだしも好いであろう。)

  過北荘訪友      (七言絶句)
浅水平沙凍鴨眠。   浅水 平沙 凍鴨は眠る
秋声吹過石橋辺。   秋声 吹き過ぐ 石橋の辺
尋君兼得尋詩興。   君を尋ねて兼ねて詩を尋ねるの興を得たり
野樹江雲欲雪天。   野樹 江雲 雪ならんと欲するの天

  海上逢王常宗雨夜同宿陳氏西軒   (七言絶句)
故人散尽独君存。   故人は散じ尽し独り君は存す
風雨相逢海上村。   風雨 相い逢う海上の村
尊酒飲闌言不尽。   尊酒 飲 たけなわにして 言はつきず
更留余燭照黄昏。   更に余燭を留めて 黄昏を照らす

旧友はいずれかに散じ尽くして君だけが此こに残っている。
今日海上の寒村婁江っで君に逢うことは嬉しい。
酒樽を酌むことはすでに終わったが,話はまだ尽きない,
さらに燭火を点じてこの暗い黄昏の世の中を照らそうではないか。

  草堂夜集    (五言律詩)
山家具鶏黍。   山家は鶏黍をそなえ
夜与故人期。   夜る故人と期す
暫喜逢歓会。   暫らく歓会に逢うを喜ぶ
都忘在乱舞。   都て乱舞にあるを忘れ
火寒移坐密。   火は寒く坐を移して密に
燭尽得詩遅。   燭 尽きて詩を得る遅し
莫聴高城角。   聴くなかれ高城の角
明朝別又悲。   明朝の別 又悲し

(この山家の寂しいところで鶏を殺し黍を炊いてお客の用意をして友人が集るのを待っている。この楽しい会合に出会った友人は互いに喜び合い,暫くは戦争の世であることも忘れてしまっている。

火は消えて寒くなるとお互いに坐を移して,くっきあっている。燭火が尽きようとする頃,やっと詩が出来た。間もなく蘇州城から警戒の角笛の音が聞えてくる。明朝の別はまた悲しいことだろう。この角笛は聞きたくないものだ。)

  青邱・2
  目次
参考資料
高青邱全詩集。全四巻。久保天随釈註。日本図書



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