岸田秀先生と再び−−岸田秀対談集「日本人はどこへゆく」青土社
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 岸田秀先生より、このたび出版される対談集に安芸教区広陵東組の僧侶とのやり取りを収録されたいとの申し入れがありました。私どもは、喜んで同意いたしました。その折、再質問、反論、意見があれば受けたいとのことでした。当初の発言者全員に、その旨をお伝えしました。
 以下に、武田勝道との間で行いました「キリスト教の予定説」についての質疑応答・意見交換をアップいたします。
                                      武田勝道(平成17年6月30日)


岸田秀「日本人はどこへゆく」新聞書評
『 精神分析学者岸田秀氏の対談集。河合隼雄氏、池田晶子氏ら十組との対談で構成され、このうち「一神教vs多神教」は、浄土真宗本願寺派の安芸教区広陵東組寺族部が昨年企画した対談をベースにしている。
 岸田秀氏のテーマである「一神教と多神教」に真宗の視点からQ&A形式で意見交換。「網野善彦氏(中世日本史家)は真宗は都市の宗教だと強調している。都市の宗教は一神教、あるいは一神教的になるのか」といった多様な質問への回答が興味深い。(青土社・一九九五円)』(中国新聞2005年(平成17年)9月5日)


岸田秀・小滝透対談(平成16年(2004年)3月8日)の事前質問
岸田秀先生のご回答


「岸田秀先生からの回答」「岸田秀先生と再び」が、このたび出版された
岸田秀「日本人はどこへゆく」青土社(1,900円)に掲載されています。
書籍でお読みいただければ、また印象が違うかと存じます。(H17.07.23)


浄土真宗の他力思想とキリスト教の予定説
(平成17年6月29日)

Q.
 他力思想とキリスト教の予定説とは、信仰する者にとって構造は同じだと思いますが、浄土真宗とキリスト教は次の点で決定的に相違いたします。キリスト教徒は、自己のみが神に救済を予定されていると確信し、キリスト教徒でない者には救済が予定されていないとし、それを理由に、キリスト教徒を全員、救済される方に置いているのでなければ、あれだけ盛大に非キリスト教の有色人種を殺戮できなかったでしょう。キリスト教徒は、植民地時代に非キリスト教徒の有色人種を人間ではないと判定して殺戮し、神の救済を予定されていない範疇を作って、自己の救済予定を確信したのだと思います。絶対無限の神の前で人間はその違いが無限小になり、そこに平等観念が生まれたとキリスト教を美化する考えの限界がこれで明らかになります。と同時に、平等主義の限界をここに見ることができます。
 他力思想と一神教の予定説についてのお考えを伺いたい。(武田勝道)

A.
 予定説も他力思想も詳しくは知りませんが、この二つは、一見、同じようでいて重要な点で違うのではないかと思います。キリスト教の予定説は、カルヴィニズムに最も典型的に現れていますが、全知全能の唯一絶対神がすべてを創造し、すべてを決定するのであって、完全に無知無能の個人は、神のなすことについてまったく何も知り得ないし、それを微塵も動かすことはできないという思想です。個人がどれほど努力して善行を積もうが、彼が救われるか救われないかには何の関係もなく、あらかじめ神が決めているのです。この思想では、絶対的に偉大な神と、最低にみじめな個人とが著しい対比を成しています。神の慈悲にすがっても何の効果もないのです。これは個人を貶め、絶望させる思想ではないでしょうか。
 キリスト教徒は予定説のこの絶望的で苛酷な見解を自分に引き受けまいとして、神の救済はキリスト教徒全員に予定されており、非キリスト教徒には予定されていないとしたのではないでしょうか。そして、そのことを証明するため、非キリスト教徒を大量虐殺したのではないでしょうか。
 浄土真宗の他力思想は、決して個人を貶めているのではなく、自力の努力の限界、自力に頼るむなしさを説くことによって、人間が陥りがちな己惚れと傲慢を戒めているのだと思います。人間は、ともすれば、自分勝手な欲望を主観的に誠心誠意の真摯な望みだと思い込み、自分の力を過大評価し、この俺様ががんばりさえすれば、思い通りになるのだ、俺様の信心が通じないはずはないのだと信じがちなものですが、他力思想は、世界は個人が自由に動かせるようなものではないのだ、個人が悟りと救いに達するのはひとえに阿弥陀仏の本願力であって、できるだけ努力をして善根功徳を積むのはいいが、それで得られるとは限らないのだと説いて、仏の慈悲にすべてを任せて念仏し、謙虚に待つことを教えているのではないかと思います。そして、当てにしないで待っていれば救われるのです。キリスト教の予定説の神は、冷酷無情な感じですが、他力思想の仏は、当てにするのはよくないが、慈悲をもって暖かく見守ってくれているかのようです。(岸田秀)

岸田秀「日本人はどこへゆく−岸田秀対談集」青土社2005.8.8(¥1,900.(税別))133〜134頁

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