李賀詩集詩選  (上)(下)

李賀(791〜817)字は長吉。「鬼才」と称された特異の詩人,李賀は27才の短い生涯を燃焼し尽して幽鬼の世界え消えて入った。詩はロマンチックな幻想の世界に燐光を発し,読む人を幻惑させる。少年のころから詩文に長じ,楽府を得意とし新鮮で華麗さは李賀に敵する者はいなかったと伝える。中唐の傑出した詩人韓愈は李賀の善き理解者であった。李賀を弁護する一文,『諱之辯』は理路整然とした名文。今も残る。
千秋詩話・李賀

   残絲曲
垂楊葉老鴬哺児     垂楊 葉老いて 鴬 児を哺くむ
残絲欲断黄蜂帰     残糸 断えんと欲っす 黄蜂帰る

緑鬢年少金釵客     緑鬢の年少 金釵の客
縹紛壷中沈琥珀     縹紛壷中 琥珀を沈む
花台欲暮春辞去     花台 暮れんと欲す 春 辞し去り
落花起作廻風舞     落花 起って廻風の舞を作す
楡莢相催不知数     楡莢 相催して 数を知らず
沈郎青銭夾城路     沈郎の青銭 城路を夾む

   竹
入水文光動     水に入り 文光動く
抽空緑影春     空に抽す 緑影の春
露華生筍徑     露華 筍徑に生じ
苔色払霜根     苔色 霜根を払う
織可承香汗     織りて香汗を承け可き
裁堪釣錦鱗     裁ちて錦鱗を釣るに堪えたり
三梁曾入用     三梁 曾つて用に入る
一節奉王孫     一節 王孫に奉ず

   七夕
別浦今朝暗     別浦 今朝暗く
羅帷午夜愁     羅帷 午夜愁う
鵲辞穿線月     鵲は 線を穿つ月を辞す
蛍入曝衣楼     蛍は 衣を曝す楼に入る
天上分金鏡     天上 金鏡を分ち
人間望玉鉤     人間 玉鉤を望む
銭塘蘇小小     銭塘 蘇小小
更値一年秋     更に一年の秋に値う

   過華清宮
春月夜啼鴉     春月 夜 啼鴉
宮簾隔御花     宮簾 御花を隔てる
雲生朱絡暗     雲生じて朱絡 暗く
石断紫銭斜     石断えて紫銭 斜なり
玉椀盛残露     玉椀 残露を盛る
銀灯点旧紗     銀灯 旧紗に点ず
蜀王無近信     蜀王 近信無く
泉上有芹芽     泉上 芹芽あり

  詠懐二首之一
長卿懐茂陵     長卿 茂陵を懐う
緑草垂石井     緑草 石井に垂れ
弾琴看文君     琴を弾じて文君を看る
春風吹鬢影     春風 鬢影を吹く
梁王與武帝     梁王と武帝と
棄之如断梗     之を棄てること断梗の如し
惟留一簡書     惟だ一簡の書を留める
金泥泰山頂     金泥 泰山の頂

  蘇小小墓
幽蘭露        幽蘭の露
如啼眼        啼眼の如し
無物結同心     物の同心を結ぶ無く
煙花不堪剪     煙花は剪むに堪えず
草如茵        草は茵の如く
松如蓋        松は蓋の如く
風為裳        風は裳と為る
水為珮        水は珮と為す 
油壁車        油壁車
夕相待        夕に相待つ
冷翆燭        翆燭 冷やかに
労光彩        光彩を労す
西陵下        西陵の下
風吹雨        風 雨を吹く

  走馬引
我有辞郷剣     我に郷を辞する剣あり
玉鋒堪截雲     玉鋒 雲を截るに堪えたり
襄陽走馬客     襄陽 馬を走らす客
意気自生春     意気 自ら春を生ず
朝嫌剣花淨     朝に嫌う 剣花の淨きを
暮嫌剣光冷     暮に嫌う 剣光の冷なるを
能持剣向人     能く剣を持して人に向う
不解持照身     持して身を照らすことを解せず

  古悠悠行
白景帰西山     白景 西山に帰る
碧華上超超     碧華 上りて超超たり
古今何処尽     古今 何れの処にか尽きる
千歳随風飄     千歳 風に随いて飄える
海沙変成石     海沙 変じて石と成る
魚沫吹秦橋     魚沫 秦橋を吹く
空光遠流浪     空光 遠く流浪
銅柱従年消     銅柱 年に従い消える

  傷心行
嗚咽学楚吟     嗚咽 楚吟お学ぶ
病骨傷幽素     病骨 幽素を傷む
秋姿白髪生     秋姿 白髪生じ
木葉啼風雨     木葉 風雨に啼く
灯青蘭膏歇     灯青く蘭膏歇き
落照飛娥舞     落照 飛娥 舞う
古壁生凝塵     古壁 凝塵を生じ
覊魂夢中語     覊魂 夢中に語る

  屏風曲
蝶棲石竹銀交関       蝶は石竹に棲む 銀の交関
水凝緑鴨瑠璃銭       水は緑鴨を凝らす 瑠璃の銭
團廻六曲抱膏蘭       團廻 六曲 膏蘭を抱く
解鬟鏡上擲金蝉       鬟を解く鏡上に金蝉を擲つ
沈香火暖茱萸煙       沈香 火暖かに茱萸の煙
酒[角 光]綰帯新承懽    酒[角 光]帯を綰ねて新に懽を承ける
月風吹露屏外寒       月風 露を吹いて 屏外寒し
城上烏啼楚女眠       城上 烏啼いて 楚女眠る

  羅浮山人與葛篇
依依宜織江雨空       依依として織るに宜し江雨の空
雨中六月蘭台風       雨中の六月 蘭台の風
博羅老仙持出洞       博羅の老仙 持して洞を出る
千歳石牀啼鬼工       千歳の石牀 鬼工を啼かしめ
蛇毒濃凝洞堂湿       蛇毒 濃に凝らし洞堂 湿う
江魚不食銜沙立       江魚 食らわず 沙を銜んで立つ
欲剪湘中一尺天       湘中 一尺の天を剪らんと欲す
呉娥莫道呉刀渋       呉娥 道う莫れ 呉刀渋ると

  昌谷北園新筍 四首之一
古竹老梢惹碧雲       古竹 老梢 碧雲を惹く
茂陵帰臥嘆清貧       茂陵 帰臥し清貧を嘆じ
風吹千畝迎雨嘯       風吹く千畝 雨を迎えて嘯く
鳥重一枝入酒樽       鳥重く一枝 酒樽に入る

  昌谷読書示巴童
蟲響燈光薄      蟲響いて燈光薄く
宵寒薬気濃      宵寒うして薬気濃かなり
君憐垂翅客      君は憐む垂翅の客
辛苦尚相従      辛苦して 尚 相い従う

李賀詩集・下巻⇒      李賀
 参考資料:李長吉詩集(商務印書館出版)

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