李清照詩詞集     中之部  ( 上之部 下の部

   
酔花陰
薄霧濃雲愁永昼      薄霧 濃雲 永き昼を愁う
瑞脳鎖金獣         瑞脳 金獣を鎖ざす
佳節又重陽         佳節 又た重陽
玉枕紗厨          玉枕 紗厨
半夜涼初透         半夜 涼 初めて透る

東籬把酒黄昏後      東籬 酒を把る黄昏の後
有暗香盈袖         暗香 袖に盈る有り
莫道不鎖魂         鎖魂せずと道う莫れ
簾捲西風          簾を西風に捲く
人似黄花痩         人は黄花に似て痩せたり

  
小重山
春到長門春草青      春は長門に到り 春草青し
江梅些子破         江梅 些子破ぶる
未開堰@           未だ開き奄ず
碧雲籠碾玉成塵      碧雲 籠碾して 玉 塵を成す
留暁夢            暁夢を留むる
驚破一甌春         驚破す一甌の春

花影圧重門         花影 重門を圧す
疎簾鋪淡月         疎簾 淡月を鋪く
好黄昏            黄昏 好し
二年三年負東君      二年三年 東君に負く
帰来也            帰り来れ也
著意過今春         著意して今春を過ごさん

  
蝶恋花
涙湿羅衣脂粉満      涙は羅衣を湿らし 脂粉満つ
四畳陽関          四畳の陽関
唱到千千遍         唱到す千千遍
人道山長山又断      人は道う山は長し山は又た断つと
蕭蕭微雨聞孤館      蕭蕭たる微雨 孤館を聞く

惜別傷離方寸乱      別れを惜み 離れるを傷み方寸の乱れ
忘了臨行          忘了する行に臨むことを
酒盞深和浅         酒盞 深きと浅きと
好把音書憑過雁      好し音書を把って過雁に憑らん
東莱不似蓬莱遠      東莱は蓬莱の遠きに似ず

   
詠史
両漢本継紹         両漢 本と継紹
新室如贅疣         新室 贅疣が如し
所以?中散         所以 ?中の散
至死薄殷周         死に至るまで殷周を薄じる


  
漁家傲
雪裏已知春信至      雪裏 已に春信の至るを知る
寒梅点綴瓊枝膩      寒梅 点綴し 瓊枝は膩なり
香臉半開嬌??      香臉 半ば開て嬌として??たり
当庭際            当に庭際なるべし
玉人浴出新粧洗      玉人 浴出して新粧 洗かなり

造化可能偏有意      造化 能く偏えに意有る可し
故教明月玲瓏地      故さらに明月を教て 玲瓏地ならしむ
共賞金尊沈緑蟻      共に賞せん 金尊に緑蟻を沈むるを
莫辞酔            酔うことを辞する莫れ
此花不與群花比      此の花 群花と比せず

  
念奴嬌
蕭条庭院           蕭条たる庭院
又斜風細雨         又た斜風 細雨
重門須閉           重門 須べからく閉めるべし
寵柳嬌花寒食近       寵柳 嬌花 寒食近し
種種悩人天気        種種 人を悩ます天気
険韻詩成           韻を険べて 詩が成り
扶頭酒醒           扶頭の酒醒めるとも
別是閑滋味          別に是れ閑に滋味する
征鴻過尽           征鴻 過ぎ尽す
万千心事難寄        万千の心事 寄せ難き


楼上幾日春寒        楼上 幾日の春寒
簾垂四面           簾 四面に垂れ
玉欄干慵倚          玉欄干 倚るに慵うし
被冷香消新夢覚       冷香により新夢を消ずるを覚え
不許愁人不起        許さず愁人の起こさざるを
清露晨流           清露 晨に流れ
新桐初引           新桐 初めて引び
多少遊春意          多少 遊春の意
日高煙劍           日高く 煙劍まる
更看今日晴未        更に看る今日 晴れるや未だしやと

  
菩薩蛮
風柔日薄春猶早       風柔かに 日薄く 春猶を早し
夾衫乍著心情好       夾衫 乍めて著けて 心情好し
睡起覚微寒          睡起 微寒を覚える
梅花鬢上残          梅花 鬢上に残し

故郷何処是          故郷は何処なりしや是れ
忘了除非酔          忘了す 酔うに非ざるを除けば
沈水臥時焼          沈水 臥す時に焼く
香消酒未消          香消えて酒未だ消えず

   
蝶恋花
永夜厭厭歓意少       永夜 厭厭として歓意少く
空夢長安           空しく長安を夢み
認取長安道          認め取りたり長安の道
為報今年春色好       今年の春色の好きを報ぜんが為に
花光月影宜相照       花光月影 宜しく相い照らすべし
随意杯盤雖草草       随意なれ杯盤の草草たりと雖も
酒美梅酸           酒は美にして 梅は酸なり
恰称人懐抱          恰に人の懐抱に称う
酔莫挿花花莫笑       酔うて花を挿す莫れ 花も笑う莫れ
可憐春似人将老       憐む可し 春も人に似て将に老いんとするを


  
憶秦娥
臨高閣             高閣に臨む
乱山平野煙光薄       乱山 平野 煙光 薄く
煙光薄             煙光薄く
棲鴉帰後           棲鴉の帰りし後
暮天聞角           暮天 角を聞く

断香残酒情懐悪       断香 残酒 情懐 悪し
西風催襯梧桐落       西風 催襯して 梧桐 落つ
梧桐落             梧桐 落つ
又還秋色           又た秋色に還る
又還寂寞           又た寂寞に還る

  
行香子
草際鳴蛩           草際の鳴蛩
驚落梧桐           驚き落る梧桐
正人間天上愁濃      正に人間天上 愁い濃かなり
雲懐月地           雲懐 月地
関鎖千重           関鎖すること千重
?浮槎来           ?え浮槎を浮かべて来り
浮槎去            槎を浮かべ去るも
不相逢            相逢はず
星橋鵲駕           星の橋 鵲の駕
経年纔見           年を経て纔かに見る
想離情別恨難窮      離情別恨を想えば難窮
牽牛織女           牽牛と織女は
莫是離中           莫や是れ離中か
甚霎兒晴           甚に霎兒し晴れ
霎兒雨             霎兒し雨
霎兒風             霎兒し風
(趙明誠は病を押して絶筆の詩を作り、この世に別れを告げた。李清照は遺体を棺に収め悲痛な思いでで一篇の祭文を書いた。それは趙明誠に対する心痛な哀悼を表明している。『宋人謝?。四六談塵』)『
白日正中、嘆寵翁之機捷。堅城自堕、憐杞婦之悲深。』

  
孤雁児 (御街行)
藤牀紙帳朝眠起      藤牀 紙帳 朝眠より起き
説不尽無佳思        説いて尽かず 佳き思い無きを
沈香断続玉炉寒      沈香断続して玉炉寒く
伴我情懐如水        我が情懐の水の如きに伴う
笛声三弄           笛声 三弄し
梅心驚破           梅心 驚破す
多少春情意          多少の春情の意

小風疎雨蕭蕭地      小風 疎雨 蕭蕭の地
又催下千行涙        又た催し下す 千行の涙
吹簫人去玉楼空      簫を吹く人 去りて玉楼 空し
腸断與誰同倚        腸断つも誰と同に倚らん
一枝折得           一枝 折り得る
人間天上           人間 天上
没個人堪寄          個人 寄るに堪るに没し

  
永遇楽
落日鎔金          落日 金を鎔かす
暮雲合璧          暮雲 璧を合す
人在何処          人は 何処に在りや
染柳煙濃          柳を染めて 煙濃し
吹梅笛怨          梅を吹いて 笛怨む
春意知幾許         春意 知ること幾許ぞ
元宵佳節          元宵の佳節
融和天気          融和す天気
次第豈無風雨       次第に豈に風雨無からんや
来相召            来りて相い召く
香車宝馬          香車 宝馬
謝他酒朋詩侶       謝す他の酒朋詩侶

中州盛日          中州の盛んなりし日
閨門多暇          閨門 暇の多かりし
記得偏重三五       記し得たり偏えに三五を重んずるを
鋪翠冠児          翠を鋪したる冠児
撚金雪柳          金を撚る雪柳
簇帯争済楚         簇帯して済楚を争う
如今憔悴          如今 憔悴す
風鬟霜鬢          風鬟 霜鬢
怕見夜間出去       見るを怕れる夜間の出去
不如向           向うにしかず
簾児底下          簾児 底下
聴人笑語          人の笑語を聴く

  
添字醜奴児
窓前誰種芭蕉樹      窓前 誰が種る芭蕉の樹
陰満中庭           陰は中庭に満つ
陰満中庭           陰は中庭に満つ
葉葉心心           葉葉 心心
舒展有余情          舒展し余情有り

傷心枕上三更雨      傷心の枕上 三更の雨
点滴凄清           点滴 凄清
点滴凄清           点滴 凄清
秋損北人           北人を秋損す
不慣起来聴          起来し聴くに慣れず


 
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