李清照詩詞全集     上之部  中之部  下の部  李清照詩話
  怨王孫
湖上風来波浩渺      湖上 風来たり波 浩渺たり
秋已暮            秋 已に暮れ
紅希香少          紅は希に 香りは少なし
水光山色與人親      水光山色 人と親しむ
説不尽            説いて尽さず 
天窮好            天 窮めて好し

蓮子已成荷葉老      蓮子 已に荷葉の老いたるに成る
清露洗蘋花汀草      清露 蘋花の汀草を洗う
眠沙鴎鷺不回頭      沙に眠る 鴎鷺 頭を回らさず
似也恨            恨むに似たる也
人帰早            人の帰るの早きぞ

   
如夢令
常記渓亭日暮        常に渓亭の日暮を記す
沈酔不知帰路        沈酔し帰路を知らずを
興尽晩回舟         興尽きて 晩きに舟を回す
誤入藕花深処        誤まりて藕花の深き処に入る
争渡             争んで渡らん
争渡             争んで渡らん
驚起一灘鴎鷺        驚き起こす一灘の鴎鷺

   
如夢令
昨夜雨疎風驟       昨夜 雨は疎に風は驟かりき
濃睡不消残酒       濃睡 残酒も消さず
試問捲簾人         試みに簾を捲く人に問う
却道海棠依旧       却って道う海棠は旧に依ると
知否             知るや否や
知否             知るや否や
応是緑肥紅痩       応に是れ緑り肥へ紅は痩れるべきに

   
浣渓沙
淡蕩春光寒食天     淡蕩たる春光 寒食の天
玉炉沈水嫋残煙     玉炉 沈水 嫋たる残煙
夢回山枕隠花鈿     夢は山枕の花鈿を隠すを回る
海燕未来人闘草     海燕 未だ来たらず人は草を闘わす
江梅已過柳生綿     江梅 已に過ぎて柳は綿を生じ
黄昏疏雨湿秋千     黄昏の疏雨 秋千を湿らす

   
浣渓沙
小院閑窓春色深     小院の閑窓 春色深し
重簾未捲影沈沈     重簾 未だ捲かず影沈沈
倚楼無語理瑤琴     楼に倚りて語る無し瑤琴を理める

遠岫出雲催薄暮     遠岫 雲を出だし薄暮を催す
細風吹雨弄軽陰     細風 雨を吹いて軽陰を弄す
梨花欲謝恐難禁     梨花 謝せんと欲し 禁じ難しを恐れる

   
減字木蘭花
売花担上         売花 担上
買得一枝春欲放     買い得たり一枝 春 放はんと欲す
涙染軽堰@        涙染めて軽く奄、
猶帯?霞暁露痕     猶を?霞を帯びる暁露の痕

怕郎猜道         郎が猜いて道うを怕れる
奴面不如花面好     奴の面は花の面の好きに不如と
雲鬢斜簪         雲鬢は斜めに簪し
徒要教郎比並看     徒ずらに郎をして比べ並らび看せしむを要しむる

   
一剪梅
紅藕香残玉簟秋     紅藕 香を残す玉簟の秋
軽解羅裳         軽く羅裳を解いて
獨上蘭舟         獨り蘭舟に上る
雲中誰寄錦書来     雲中 誰か錦書を寄せて来る
雁字回時         雁字 回る時
月満西楼         月は西楼に満つ

花自飄零水自流     花は自ら飄零 水は自ら流れる
一種相思          一種の相思
両処閑愁          両処の閑愁
此情無計可消除     此の情 消除すべき計は無く
纔下眉頭          纔かに眉頭より下りて
却上心頭          却って心頭に上る


   
玉楼春
紅酥敢放瓊苞砕     紅酥 敢えて瓊苞の砕くを放つ
探著南枝開遍末     探著す南枝の開いて遍ねし末を
不知薀藉幾多香     薀藉 幾多の香りを知らず
但見包蔵無限意     但だ包蔵の無限の意を見る

道人憔悴春窓底     道人は憔悴す春窓底
悶損欄干愁不倚     欄干に悶損して愁いて倚らず
要来小酌便来休     小酌を要し来りて 便ち来りて休む
未必明朝風不起     未だ必ずしも明朝 風 起らず

   
夏日絶句
生当作人傑        生きては当に人傑と作るべし
死亦為鬼雄        死しては亦た鬼雄と為るべし
至今思項羽        今に至るも項羽を思う
不肯過江東        江東を過ぎるを肯せんせざる


   
暁夢
暁夢随疎鐘        暁夢 疎鐘に随う
飄然躡雲霞        飄然として雲霞を躡む
因縁安期生        縁に因るは安期生
邂逅萼緑華        萼緑華と邂逅する
秋風正無頼        秋風は正に無頼
吹尽玉井花        吹き尽くす玉井の花
共看藕如船        共に看る藕は船の如きを
同食棗如瓜        同じくし食する 棗は瓜の如き
翩翩坐上客        翩翩たり坐上の客
意妙語亦佳        意は妙にして語も亦た佳なり
嘲辞闘詭弁        嘲辞 詭弁を闘わし
活火分新茶        火を活かし新茶を分かつ
雖非助帝功        帝功を助けざると雖も
其楽莫可涯        其の楽みは涯り可き莫く
人生能如此        人生 能く此くの如くなれば
何必帰故家        何ぞ必らずしも故家に帰らん
起来斂衣坐        起き来って衣を斂め坐す
掩耳厭喧嘩        耳を掩わん喧嘩を厭うに
心知不可見        心知 見るべからず
念念猶咨嗟        念い念い 猶を咨嗟する


 
慶清朝慢
禁幄低張          禁幄 低く張る
?欄巧護          ?欄 巧みに護る
就中独占残春       なかんずく残春を独占す
容華淡佇          容華 淡佇
綽約倶見天真       綽約 倶に天真を見る
待得群花過後       群花の過ぎし後を待ち得て
一番風露暁粧新      一番の風露 暁粧 新たなり
妖?艶態          妖?たり艶態
妬風笑月          風を妬み 月に笑う
長?東君          長えに東君に?す

東城辺            東城の辺
南陌上            南陌の上
正日?池館         正に日は池館に?なるべし
競走香輪          競って香輪を走らす
綺筵散日          綺筵の散日
誰人可継芳塵       誰れ人か芳塵を継ぐ可き
更好明光宮殿       更に明光の宮殿を好み
幾枝先近日辺堰@     幾枝か先ず日辺に近くに奄、
金樽倒           金樽 倒しまにす
?了尽燭          ?了 燭を尽し
不管黄昏          黄昏に管せず




○中国では、楽府や詞が虚構の文学とされるのに対して、古詩や近体詩は実録の文学と言う了解が、暗黙のいちにある。詞は「花間」以来、世間から「艶科」として目されて来た。宋代に花ひらいた「詞」は唐代でも一部の詩人が書き残している。斉。梁。時代の宮体詩の没落を留め得るのは、蘇軾、柳永らの出現が大きい。蘇軾は詩のみならず、高揚した激越な音調に加え奔放な豪情を表現し、一代の詞風を切り開いた。

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                石九鼎の漢詩舘
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