蘇東坡詩集 ★  一巻    目次 : 詩話


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郭綸
河西猛士無人識。    河西の猛士 人の識る無し
日暮津亭閲過船。    日暮津亭 過船を閲す
路人但覚青馬痩。    路人は但覚える青馬の痩するを
不知鉄槊大如椽。    知らず鉄槊 大さ椽の如きを
因言西方久不戦。    因て言う西方 久しく戦はず
截髪願作萬騎先。    截髪願はくは萬騎の先と作らんと
我當憑軾與寓目。    我れ當に軾に憑って與に寓目すべく
看君飛矢集蠻氈。    君が飛矢の蠻氈に集まるを看ん
(郭綸の功があるにも関わらず賞されず、憔悴して他郷にあるに同情して寄せた作)

   
初発嘉州
朝発鼓填填。       朝に発して鼓填填
西風臘画旃。       西風 画旃を臘かす
故郷飄已遠。       故郷 飄として已に遠く
往意浩無辺。       往意 浩として無辺
錦水細不見.。       錦水は細かにして見えず
蠻江清可憐。       蠻江は清にして憐むべし
奔騰過佛客。       奔騰して佛客を過ぎ
曠蕩造平川。       曠蕩して平川に造る
野市有禅客。       野市 禅客あり
釣台尋暮煙。       釣台 暮煙を尋ね
相期定先到。       相期す 定らず先づ到るを
久立水潺潺。       久しく立つ水の潺潺たるに
(仁宋の嘉祐4年。1059年東坡は、弟子由と、父老泉に侍し、舟で楚に往く。此の詩は其の時の作)

  
江上看山
船上看山如走馬。    船上 山を看れば走馬の如く
倏忽過去数百群。    倏忽として過ぎ去る数百群
前山槎牙忽変態。    前山は槎牙として忽ち態を変じ
後嶺雑沓如驚奔。    後嶺は雑沓して驚奔するが如し
仰看微徑斜繚繞。    仰いで微徑を看れば斜に繚繞し
上有行人高縹渺。    上に行人あり高うして縹渺
舟中挙手欲與言。    舟中 手を挙げて與に言わんと欲すれば
弧帆南去如飛鳥。    弧帆 南に去り飛鳥の如し
(此の詩、起句は、杜甫の隔河見胡騎、倏忽数百群の二語を用いる、結句は、独孤求の詩、風帆若鳥飛から来る)

   和子由?池懐旧
人生到處知何似。    人生到る處 知んぬ何にか似たる
応似飛鴻踏雪泥。    応に飛鴻の雪泥を踏むに似たるべし
泥上偶然留指爪。    泥上偶然として 指爪を留む
鴻飛那復計東西。    鴻飛んで那ぞ復た 東西を計らん
老僧已死成新塔。    老僧は已に死して 新塔を成し
壊壁無由見旧題。    壊壁 旧題を見るに由し無し
往日崎嶇還記否。    往日の崎嶇 還た記するや否や
路長人困蹇驢嘶。    路長く人困しみ蹇驢嘶きしことを

   
游三游洞
凍雨霏霏半成雪。    凍雨霏霏として半ば雪と成る
游人屐冷蒼苔滑。    游人屐冷かにして蒼苔滑かなり
不辞携被巌底眠。    被を携えて巌底に眠らんことを辞せず
洞口雲深夜無月。    洞口雲深くして夜月無し

(白楽天が江州の司馬から忠州の刺史に転任した時、弟の知退、友人の元微之と洞に遊。各々古詩二十韻を賦して赤壁に賦す、吾ら三人始めて遊ぶ、因って三游洞と名付けると記した)

   荊州 (十首之一)
游人出三峽。       游人 三峽を出づれば
楚地盡平川。       楚地 盡く平川
北客随南賈。       北客 南賈に随う
呉檣間蜀船。       呉檣 蜀船を間じあう
江侵平野断。       江は平野を侵して断え
風捲白沙旋。       風は白沙を捲いて旋る
欲問興亡意。       興亡の意を問んと欲すれば
重城自古堅。       重城 古より堅し

(1060年、正月に東坡は弟子由と父老泉に侍し荊州から大梁に遊ぶ、荊州十首は其の時の詩)

   隆中
諸葛来西国。      諸葛 西国に来る
千年愛未衰。      千年 愛 未まだ衰えず
今朝游古里。      今朝 古里に遊ぶ
蜀客不勝悲。      蜀客は悲しみに勝えず
誰言襄陽野。      誰か言う襄陽の野に
生此萬乗師。      此の萬乗の師を生ずと
山中有遺貌。      山中 遺貌あり
嬌嬌龍之姿。      嬌嬌たる龍の姿
龍蟠山水秀。      龍蟠せば山水秀で
龍去淵檀移。      龍去れば淵檀移る

空余蜿蜒蹟。      空しく余す蜿蜒の蹟
(隆中に諸葛の古宅がある。荊州記に、宅西有山鼓、諸葛嘗登之。梁父吟、因名不能上海)

   竹酒葉
楚人汲漢水。      楚人 漢水を汲む
醸酒古宜城。      醸酒を醸す古宜城
春風吹酒熟。      酒は春風を吹いて熟し
猶似漢江清。      猶ほ漢江の清きに似たり
耆旧人何在。      耆旧 人は何にか在る
邱墳応已平。      邱墳 応に已に平なるべし
惟余竹葉在。      惟だ余して竹葉在り
留此千古情。      此の千古の情を留む

(宜城は天宝元年に,宜城県に改められた。故城は今の県南に在る。其の地から美酒を出し、其の宜城美酒を出し竹葉春と名付ける

   
朱亥墓
昔日朱公子。      昔日の朱公子
雄豪不可追。      雄豪 追うべからず
今来游故国。      今来って故国に游ぶ
大冢屈称児。      大冢 屈して児と称す
平日軽公相。      平日 公相を軽んじ
千金棄若遺。      千金 棄てて遺すれるが若し
梁人不好事。      梁人は事を好まず
名姓寄当時。      名姓 当時に寄せる
魯史盗斉豹。      魯史は斉豹を盗とす
求名誰復知。      名を求むるも誰か復た知らん
慎無怨世俗。      慎んで世俗を怨むこと無かれ
猶不遭仲尼。      猶ほ仲尼に遭わず

(朱亥は戦国魏の大梁の人。勇侠にして屠肆に隠れる。候a由?はこれを魏の公子無忌に薦めた。秦の昭王が趙を攻める。無忌はこれを救おうとしたが、兵力を要するので朱亥をして四十斤の鉄推を袖にし、将軍晋鄙を撃殺して、其の軍を奪う、遂に秦の兵を退け趙を存した。)

   驪山三絶句 (其之一)
功成惟欲善持盈。     功成って惟だ欲す善く盈を侍するを
可歎前王恃太平。     歎ずべし王の恃太平を恃むを
辛苦驪山山下土。     辛苦す驪山 山下お土
阿房纔廃又華清。     阿房 纔に廃すれば又華清

   
驪山三絶句 (其之二)
幾変彫牆幾変灰。     幾びか彫牆に変じて幾たびか灰に変ずる
挙烽指鹿事悠哉。     烽を挙げ鹿を指す事悠なる哉な
上皇不念前車戒。     上皇は前車の戒を念はず
却怨驪山是禍胎。     却て怨む驪山 是れ禍胎と
三詩とも、唐の玄宗のことを詠じる。一は清華宮を言う、二は上皇を言う)

   
留題延生観後山上小室
溪山愈好意無厭。     溪山愈々好くして意無の厭くこと無し
上到巉巉第幾尖。     上って巉巉たる第幾尖に到る
深谷野禽羽毛怪。     深谷の野禽 羽毛怪に
上方仙子鬢眉繊。     上方の仙子 鬢眉繊なり
不慚弄玉騎丹鳳。     弄玉 丹鳳に騎るに慚ぢず
応遂嫦娥駕老蟾。     応に遂う嫦娥の老蟾に駕するべし
澗草巌花自無主。     澗草巌花 自ら主なし
晩来胡蝶入疎簾。     晩来胡蝶 疎簾に入る
(唐の玉真公主修道の遺跡、)

   
留題仙游潭。中興寺東有玉女洞。
清潭百尺皎無泥。     清潭百尺 皎として泥なし
山目陰陰谷鳥啼。     山目陰陰として谷鳥啼く
蜀客曽游名月峡。     蜀客曽って游ぶ名月峡
秦人今在武陵溪。     秦人は今は武陵溪にあり
独攀書室窺巌賽。     独り書室に攀じて巌賽を窺う
還訪仙妹款石閨。     還訪仙妹を訪うて石閨を款く
猶有愛山心未至。     猶ほ山を愛する心の未だ至ざるあり
不将双脚踏飛梯。     双脚を将て飛梯を踏まず
(玉女潭は陜西關中道に属し、魚塘峡に在り、)

   石鼻城
平時戦国今無在。     平時戦国 今あるなし
陌上征夫自不間。     陌上の征夫 自ら間ならず
北客初来試新険。     北客初めて来って新険を試みる
蜀人従此送残山。     蜀人此より残山を送る
独穿暗月朦朧裏。     独り穿つ暗月 朦朧の裏
愁渡奔河蒼茫間。     愁えて渡る奔河 蒼茫の間
漸入西南風景変.。     漸く西南に入れば風景変じ
道辺修竹水潺潺。     道辺は修竹 水は潺潺

(魏の明帝が太原の「赤 ?」昭を陳倉城を営ます。諸葛孔明が此れを囲んだが下らなかった)

   
楼観
門前古碣臥斜陽。     門前の古碣 臥斜陽に臥す
閲世如流事可傷。     世を閲する流るる如く事 傷むべし
長有幽人悲晋恵。     長へに幽人あって悲晋恵を悲しむ
強修遺廟学秦皇。     強いて遺廟を修めて秦皇を学ぶ
丹砂久窖井水赤。     丹砂久窖 井水赤く
白朮誰焼厨?香。     白朮 誰か焼いて厨?香ばし
聞道神仙亦相過。     聞道らく神仙亦た相過ぐと
只疑田叟是庚桑。     只だ疑う田叟 是れ庚桑
(楼観は、もと周の康王の大夫尹喜の宅、秦の始皇帝は神仙を好み、尹の楼南に老君廟を建てた)

   
九月二十日微雪懐子由弟 (二首之一)
岐陽九月天微雪。     岐陽九月 天微雪
已作蕭條歳暮心。     已に蕭條たる歳暮の心を作す
短日送寒砧杵急。     短日 寒を送り 砧杵急なり
冷官無事屋盧深。     冷官 事無くして屋盧深し
愁腸別後能消酒。     愁腸別後 能く酒に消し
白髪秋来已上簪。     白髪秋来 已に簪に上る
近買貂裘堪出塞。     近ごろ貂裘を買えば出塞するに堪えたり
忽思乗伝問西宝。     忽ち思う伝に乗じ西宝を問うを


   
読開元天宝遺事 (三首之一)
姚宋亡来事事生。     姚宋亡して このかた事事生ず
一官銖重万人軽。     一官は銖も重く万人は軽し
朔方老将風流在。     朔方の老将 風流在り
不取西蕃石堡城。     取らず西蕃の石堡城

(此の詩は宋、神宗の熙寧6,7年頃の作。神宗が西夏を討伐した事を風刺したもの)


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