蘇東坡詩集        目次 : 詩話

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   渓陰堂
白水満時雙鷺下。   白水満つる時 雙鷺下り
緑槐高處一蝉吟。   緑槐高き處 一蝉吟ず
酒醒門外三竿日。   酒は醒める門外 三竿の日
臥看渓南従畝陰。   臥して看る渓南 十畝の陰
  (査初白曰く;無意作聯、自爾合拍)

   贈王寂
與君暫別不須磋。   君と暫く別る 磋するを須いず
俯仰帰来鬢未華。   俯仰帰来 鬢未だ華ならず
記取江南煙雨裏。   記取す江南煙雨の裏
青山断處是君家。   青山断ゆる處 是れ君が家
  (紀曰く:偶作眉憮、亦自宜人と。又絶句中の佳なるに属す

   次韻王定国得穎倅  二首之二
滔滔四海我知津。       滔滔たる四海 我津を知る
毎愧先生植杖芸。       毎に愧ず先生 杖を植えて芸するに
自少多言晩聞道。       少きより多言 晩に道を聞く
従今閉口不論文。       今より口を閉じて文を論ぜず
(シ 艶)翻白獣尊中酒。   (シ 艶)は翻る白獣尊中の酒
帰煮青泥坊底芹。       帰りて煮る青泥 坊底の芹
要識老僧無尽處。       識らんと要す老僧が無尽處を
牀頭牛蟻不曽聞。       牀頭の牛蟻 曽て聞かず 
(評論者曰く:不論、不曽。例の微疵あり七八の句は意義切当を欠ける。無尽の文字牛蟻と何の関係がある)

   道者院池上作
下馬逢佳客。    馬より下りて佳客に逢い
携壷傍小池。    壷を携えて小池に傍う
清風乱荷葉。    清風 荷葉を乱す
細雨出魚児。    細雨 魚児を出す
井好能冰歯。    井は好しく能く歯を冰しく
茶甘不上眉。    茶は甘く眉に上らず
帰途更蕭瑟。    帰途 更に蕭瑟
真個解催詩。    真個に催詩を解す

   書文與可墨竹
   亡友文與可有四絶。詩一。楚辞二。草書三。画四。與可嘗云。世無知我者。惟子瞻一見識吾妙所。
   既没七年観其遺跡。而作是詩。

筆與子皆逝。    筆と子と皆逝く
詩今誰為新。    詩 今誰か新を為す
空遺運斤質。    空しく運斤の質を遺し
却弔断絃人。    却って断絃の人をして弔せしむ
  (莊子は惠子死して、天下に知己無きを悲しみ、伯牙は鐘子期死して、復た知音無く、坡公は與可死して、
  復た莊子や伯牙と其の悲しみを同じくする。の意 )

   次韻銭舎人病起
牀下亀寒且耐支。    牀下に亀寒 且つ支えるに耐えり
杯中蛇去未応衰。    杯中に蛇去り未だ応に衰うべからず
殿門明日逢王傅。    殿門明日 王傅に逢う
櫑具争先看不疑。    櫑具先を争い不疑を看る
坐覺香煙携袖少。    坐ら覺える香煙の袖に携さえるの少なるを
独愁花影上廊遅     独愁う花影の 廊に上る遅きを
何妨一笑千?散。    何ぞ妨げん一笑 千?散じ
絶勝倉公飲上池。    絶だ勝る倉公が 上池に飲むに
  (邦人先賢者曰く:宋人は学問を以って詩と成すと言う謗りがある。此の扁を読めば其の然るを知る。紀曰く:杯中の句上下不貫と上の字、使用法の意義は異なる。然し二字有るは失態。)

   次韻黄魯直赤目
誦詩得非子夏学。    詩を誦する子夏が学に非ざるを得んや
紬史正作邱明書。    紬史正に作る邱明が書
天公戯人亦薄相。    天公 人に戯むる亦薄相
略遣幻翳生明珠。    略ぼ幻翳を明珠に生ぜ遣む
頼君年来屏鮮腴。    頼に君年来 鮮腴を屏け
百千灯光同一如。    百千灯光 一如に同じ
書成自写蝿頭表。    書し成る自写の蝿頭の表
端就君王覓鏡湖。    端しく君王に就いて鏡湖を覓む
  (先人は言う今体の如く、古体の如く、再読三読。以って古体を知る。紀暁嵐曰く:世をして山谷を詩魔と称し、東坡も亦た魔道に堕せるもの。)

   杜介送魚
新年已賜黄封酒。   新年已に賜う黄封酒
旧友仍分?尾魚。   旧友仍を分つ?尾魚
陋巷関門負朝日。   陋巷関門 朝日を負い
小園除雪得春蔬。   小園除雪して春蔬を得る
病妻起斫銀糸鱠。   病妻起って斫る銀糸鱠
稚子讙尋尺素書。   稚子讙び尋ねる尺素書
酔眼朦朧覓帰路。   酔眼朦朧 帰路を覓む
松江煙雨晩疎疎。   松江の煙雨 晩に疎疎たり
  (先人曰く:釈迦に説法、孔子に道を説くが如し、狂人でなければ、稚子の態。「可可也大笑」詩体は極めて杜甫に類する」

    書李世南所画秋景。二首之一
野水参差落漲痕。   野水参差として漲痕落つ
疎林?倒出霜根。   疎林?倒して霜根を出す
扁舟一櫂帰何処。   扁舟一櫂 何処に帰る
家在江南黄葉邨。   家は江南黄葉の邨に在り

    韓康公坐上侍児求書扇上。二首之一
窓揺細浪魚吹日。   窓には細浪を揺かして魚 日を吹く
手弄黄花蝶透衣。   手は黄花を弄して蝶 衣に透る
不覺春風吹酒醒。   覺えず春風 酒を吹いて醒まし
空教名月照人帰。   空しく名月をして人の帰るを照らさしむ

    韓康公坐上侍児求書扇上。二首之二
一一窓扉面水開。   一一の窓扉 水に面して開く
更於何処覓蓬莱。   更に何れ処に於いてか蓬莱を覓めん
天香満袖人知否。   天香満袖 人知るや否や
曽到栴檀小殿来。   曽て栴檀小殿に到りて来る
  (我が邦人先賢者曰く:此の二首は或る本には有り、或る本には無し、故に蘇公の詩の真であるや否やを疑うが、蘇公が真と認める。魯生の魯の字を分割して魚吹日などと用いることは蘇東坡が慣用の名手。蜂が螫すなどと言はず蝶透衣と言う詩を解する者を喜ばす神力は、実に不可思議と思う。但し前首、吹日、吹酒、吹字を犯せるは後世刊本の誤りと思う。)

    和子由除夜元日省宿致齊。三首之一
江湖流落豈関天。   江湖に流落する豈に天に関せんや
禁省相望亦偶然。   禁省相望むも亦た偶然
等是新年未相見。   等しく是れ新年未だ相見せず
此身応坐不帰田。   此の身応に帰田せざるに坐すべし

    去杭州十五年。復遊西湖。
我識南屏金(魚 即)魚。  我識る南屏の金(魚 即)魚
重来拊檻散齊余。      重来して檻を拊つ散齊の余
還従旧社得心印。      還た旧社より心印を得て
似省前生覓手書。      省るに似たり前生覓手の書を
?合平湖久蕪没。      ?は平湖に合して久しく蕪没
人経豊歳尚凋疎。      人は豊歳を経て尚を凋疎
誰憐寂寞高常侍。      誰か憐む寂寞たる高常侍
老去狂歌憶孟諸。      老い去って狂歌 孟諸を憶うを




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