蘇東坡詩集   九巻     目次 : 詩話

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    送子由使契丹
雲海相望寄此身。    雲海相望んで 此の身を寄せる
那因遠適更沾巾。    那ぞ遠適に因って 更に巾を沾さん
不辞駅騎凌風雪。    辞せず駅騎の風雪を凌ぐを
要使天驕識鳳麟。    天驕をして鳳麟を識らしめんと要す
沙漠回看清禁月。    沙漠より回看せん清禁の月を
湖山応夢武林春。    湖山応に夢みるべし武林の春
単于若問君家世。    単于若し君が家世を問はば
莫道中朝第一人。    道うこと莫れ中朝 第一人
  (哲宗の元祐四年の秋の作。紀曰く:子由本翰林、而東坡在杭州、二句清切、結用事亦好し。蘇公が子由と関係ある詩は大抵絶精である。「獄中寄子由」の七律と、此の篇は気満ち格高し、宋詩は言情に短いとの評は定論なれど、此種の詩に対しては別問題である。)

    病後酔中
病為兀兀安身物。    病んで兀兀 安身の物と為り
酒作逢逢入脳声。    酒は逢逢 入脳の声を作す
堪笑銭塘十萬戸。    笑うに堪えたり 銭塘十萬戸
官家付與老書生。    官家付與す老書生

    壽星院寒碧軒
清風粛粛揺窓扉。    清風粛粛 揺窓扉を揺かす
窓前修竹一尺圍。    窓前の修竹一尺の圍
紛紛蒼雪落夏簟。    紛紛蒼雪 夏簟に落ち
冉冉緑霧沾人衣。    冉冉緑霧 人衣を沾す
日高山蝉抱葉響。    日高くして山蝉 葉を抱きて響く
人静翠羽穿林飛。    人静にして翠羽 林を穿つて飛ぶ
道人絶粒対寒碧。    道人絶粒して 寒碧に対す
為問鶴骨何縁肥。    為問鶴骨何縁肥
  (紀曰く:渾成脱洒、前六句有杜甫意、後二句是本色。邦人先哲者曰く:前四句、みな竹を謂い、五六山蝉翠羽を以って壽星の幽地を謂い、七八竹と人とを合せて結ぶ。蒼雪と緑霧の如きは竹、即ち寒碧の神韻。)

   西湖壽星院此君軒
臥聴謖謖砕龍鱗。    臥して聴く謖謖 龍鱗砕くるを
俯看蒼蒼立玉身。    俯して看る蒼蒼 玉身立つを
一舸鴟夷江海去。    一舸鴟夷 江海に去る
尚余君子六千人。    尚を余す君子 六千人
  (『余論』邦人先賢者曰く:此の詩を一読再読三読では其れ何事を詠ずるや少しも判らない。国語や漢書や史記を読み、始めて解する事を得る。蘇東坡詩の面目は此の如きものに在る。)

   絶句
春来濯濯江辺柳。    春来濯濯江辺の柳
秋後離離湖上花。    秋後離離湖上の花
不羨千金買歌舞。    羨まず千金 歌舞を買うを
一篇珠玉是生涯。    一篇の珠玉是れ生涯
  (邦人先賢者曰く:蘇公の詩としては平凡に過ぎる。何人か誤って纂入したものである。)

   秋晩客興
草満池塘霜送梅。    草は池塘に満ちて霜は梅に送る
疎林野色近楼台。    疎林野色 楼台に近し
天囲故越侵雲尽。    天は故越を囲んで雲を侵し尽き
潮上孤城帯月回。    潮は孤城に上り月を帯びて回る
客夢冷随楓葉断。    客夢冷かにして随楓葉に随って断え
愁心低逐雁行来。    愁心低く雁行を逐うて来る
流年又喜経重九。    流年又喜ぶ重九を経るを
可意黄花是処開。    可意なるは黄花是の処に開く
  (査初白曰く:此詩不類先生手筆、細看之、実不相似、亦是晩唐人語,然第四句自佳と。蘇公誤って発狂するも、このような狂詩は作らない。晩唐邨夫子の作たるは明明白白である。「評を読み可可也可可也大笑」)

   贈劉景文
荷尽已無フ雨蓋。    荷尽きて已に雨をフぐる蓋なく
菊残猶有傲霜枝。    菊残して猶を霜に傲るの枝あり
一年好景君須記。    一年の好景 君須らく記すべし
正是橙黄橘緑時。    正に是れ橙黄 橘緑の時
  (邦人先賢者曰く:此の詩は起聯即景対格。「聯珠詩格」で諷誦するもの。胡?渓曰く:此詩曲尽其妙と。蘇公の絶句として吐属清穏である。)

   再和楊公濟梅花十絶  十首之一
一枝風物便清和。    一枝風物便ち清和
看尽千林未覺多。    千林を看尽して未だ多きを覺えず
結習已空従著袂。    結習已に空しく著袂に従す
不須天女問如何。    須いず天女の問う如何

  再和楊公濟梅花十絶  十首之二
天教桃李作輿台。    天は桃李をして輿台と作らしむ
故遺寒梅第一開。    故に寒梅をして第一に開か遺む
?仗幽人収艾納。    幽人に?仗して艾納を収める
国香和雨入青苔。    国香 雨に和して青苔に入る

   再和楊公濟梅花十絶  十首之六
莫向霜晨怨未開。    霜晨に向こうて未開を怨む莫れ
白頭朝夕自相催。    白頭朝夕自ら相い催す
斬新一朶含風露。    斬新一朶 風露を含み
恰似西廂待月来。    恰も西廂月を待って来たるに似たり

   再和楊公濟梅花十絶  十首之九
長恨漫天柳絮軽。    長恨漫天 柳絮軽し
只将飛舞占清明。    只だ飛舞を将って清明を占める
寒梅似與春相避。    寒梅 春と相避けるに似たり
未解無私造物情。    未だ解せず無私造物の情

   再和楊公濟梅花十絶  十首之十
北客南来豈是家。    北客南来す豈に是れ家
酔看参月半横斜。    酔うて看る参月半ば横斜
他年欲識呉姫面。    他年 呉姫の面を識らんと欲し
執燭三更対此夜。    燭を執って三更に此の花に対す
  (紀は第二詩を評して興象深微、説来濃至と、第六詩を評し格意凡鄙。第九詩を末句腐甚。十詩を評し惘然不尽、情思殊深と。詩文共に前作と後作は大抵前作が善。後作が否と思う。孔明の前後二出師表、後作は已に偽であるとの説もある。蘇公の赤壁前後二賦、袁随園など後賦は偽なりと断言する。此の梅花十絶、根幹より生ずる條枝の大なるもの、美は有るが、根幹の美にして壮なるものには及ばない。)


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