蘇東坡詩 ★    二巻    目次 : 詩話
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    七月二十四日以久不雨出祷?渓
龕灯明滅欲三更。     龕灯明滅して三更ならんと欲す
欹枕無人夢自驚。     枕を欹てて人なきも夢自から驚ろく
深谷留雨終夜響。     深谷雨を留めて終夜響き
乱山銜月半牀明。     乱山月を銜んで半牀明なり
故人漸遠無消息。     故人漸く遠くして消息なく
古寺空来看姓名。     古寺空しく来って姓名を看る
欲向?渓問姜叟。     ?渓に向かって姜叟に問はんと欲すれば
僕夫屡報斗杓傾。     僕夫屡しば報ず斗杓傾くと

(七月旱が激しいので、太白山に祷ったが、験しが無い。出て?渓に祈る。嘉祐八年の作)

   二十六日五更起行至?渓。天未明
夜入?渓如入峽。     夜?渓に入る峽に入るが如し
照山炬火落驚猿。     山を照らす炬火 驚猿を落す
山頭弧月耿猶在。     山頭の弧月 耿として猶を在り
至人旧隠白雲合。     至人の旧隠 白雲合し
神物已化遺蹤「足 宛」。 神物已に化して遺蹤「足 宛」たり
安得夢随霹靂駕。     安んぞ夢に霹靂に随って駕し
馬上傾倒天瓢翻。     馬上傾倒して天瓢翻へるを得

(此の詩は嘉祐八年蘇軾が鳳翔に在した時、作ったもの)

   周公廟
吾今那復夢周公。     吾今那ぞ復た周公を夢みん
尚喜秋来過故宮。     尚を喜ぶ秋来 故宮を過ぐるを
翠鳳旧依山碍兀。     翠鳳は旧依る山の碍兀に
清泉長與世窮通。     清泉は長く世と窮通する
至今游客傷離黍。     至今に至るまで游客 離黍を傷み
故国諸生詠雨濛。     故国の諸生は雨濛を詠ず
牛酒不来鳥鳥散。     牛酒 来らず鳥鳥散じ
白楊無数暮號風。     白楊無数 暮に風に號ぶ
 (華山より以西の名山は七つ。其の四を岐山と言う、蘇東坡は此の岐山に游んだのは、治平元年の七月この詩を作る))

   楼観
鳥噪猿呼昼閉門。     鳥噪ぎ猿呼び昼門を閉ざす
寂寥誰識古皇尊。     寂寥誰か識らん古皇の尊きを
青牛久已辞轅軛。     青牛久しく已に轅軛を辞し
白鶴時来訪子孫。     白鶴時に来って子孫を訪う
山近朔風吹積雪。     山近くして朔風 積雪を吹き
天寒落日淡孤村。     天寒うして落日 孤村淡し
道人応怪游人衆。     道人応に怪むべし游人衆くして
汲尽階前井水渾.。     階前の井水を汲み尽して渾らしめしを

 (英宗の治平元年、正月十九日楼観、五郡、大秦寺、延生観に游び仙游譚に至る)

   五郡
古観正依林麓断。     古観正に林麓の断ゆるに依る
居民来就水泉甘。     居民来って水泉の甘きに就く
乱渓赴渭争趨北。     乱渓渭に赴いて争うて雛北に趨き
飛鳥迎山不復南。     飛鳥山を迎えて復た南せず
羽客衣冠朝上象。     羽客衣冠 上象に朝し
野人香火祝春蚕。     野人香火 祝春蚕を祝す
汝師豈解言符命。     汝が師豈に符命を言うを解せん
山鬼何知託老?。     山鬼何ぞ知らん託老?に託するを

   十二月十四日夜微雪
南渓得雪真無値。     南渓雪を得て真に値なし
走馬来看及未消。     馬を走らせて来り看て未だ消せざるに及ぶ
独自披榛尋履跡。     独り自ら榛を披て履跡を尋ね
最先犯暁過朱橋。     最も先ず暁を犯して朱橋を過ぐ
誰憐屋破眼無処。     誰か憐まん屋破れて眼るに処なきを
坐覚村餓語不囂。     坐に覚える村餓えて語囂しからざるを
惟有暮鴉知客意。     惟だ暮鴉の客意を知るあって
驚飛千片落寒條。     驚飛すれば千片 寒條より落つ

 (嘉祐八年、蘇軾二十八歳の時)

   和子由木山引水 (二首之一)
蜀江久不見滄浪。     蜀江久しく滄浪を見ず
江上枯槎遠可将。     江上の枯槎 遠く将ゆべし
去国尚能三犢載。     国を去りて尚を能く三犢に載す
酌泉何愛一夫忙。     泉を汲む何ぞ愛しむ一夫の忙しきを
崎嶇好事人応笑。     崎嶇好事 人応に笑うべし
冷淡為歓意自長。     冷淡為に歓び意自から長し
遥想納涼清夜永。     遥に想う納涼 清夜永く
窓前微月照汪汪。     窓前の微月 汪汪を照らすを

   寄題興州晁太守新開古東池
百畝清池傍郭斜。     百畝の清池 郭に傍うて斜なり
居人行楽路人誇。     居人は行楽し路人は誇る
自言官長如霊運。     自ら言う官長は霊運の如にして
能使江山似永嘉。     能く江山をして永嘉に似しむと
継飲座中遺白恰。     継飲座中 白恰を遺す
幽尋尽処見桃花。     幽尋尽る処 桃花を見る
不堪山鳥號帰去。     山鳥の帰去を號ぶに絶えず
長遺王孫苦憶家。     長く王孫をして苦ごろに家を憶はしむ

 (此に詩は治平元年十二月の作で、新たに古東池を開いたので、特に詩を寄せて題したもの)

    嘉陰寄子由
三年無日不思帰。     三年 日として帰るを思はざるなし
夢裏還家旋覺非。     夢裏家に還って旋や非を覺える
臘酒送寒催去国。     臘酒寒を送り去国を催す
東風吹雪満征衣。     東風雪を吹いて征衣に満つ
三峰已過天浮翠。     三峰已に過ぐ天の浮翠
四扇行看日照扉。     四扇 行くゆく看る日照の扉
里〔土侯)消磨不禁尽。  里〔土侯)消磨 尽くるを禁ぜず
速携家餉労驂?。     速やかに家餉を携え驂?を労す

 (治平元年十二月、東坡が華陰県に至る、子由に寄せた詩。詩中三峰とあるのは、太華の三峰である)

   西蜀楊耆。二十年前。見之甚貧。今見之亦貧
孤村微雨送秋涼。     孤村微雨 秋涼を送り
逆旅愁人怨夜長。     逆旅の愁人 夜の長きを怨む
不寝相看惟櫪馬。     寝ねずして相い看るは惟だ櫪馬
悲歌互答有寒蜩。     悲歌互いに答えるは寒蜩あり
天寒滞穂猶横畝。     天寒うして滞穂 猶を畝に横たわり
歳晩空機尚依墻。     歳晩れて空機 尚を依墻に依る
勧爾一杯聊復睡。     爾に一杯を勧めて聊さか復た睡らしむ
人間貧富梅茫茫。     人間の貧富は梅茫茫

 (西蜀の揚耆、来たりて閲したが、貧甚だしく同情に堪えなかったから,先に扶風駅で貧に苦しで居たものを詠じた詩を楊君に与えた。即ち雨の夜、扶風駅の逆旅で歌うものの声が悲しいので、之を問えば、昔は富みて今、貧しくなった。東坡は凄然として之に酒を飲ませて一詩を作った。)
  
   次韻柳子玉見寄
薄雷軽雨暁晴初。    薄雷軽雨 暁晴れるの初
陌上青泥未濺裙。    陌上の青泥 未だ裙に濺がず
行楽及時雖有酒。    行楽時に及び酒ありと雖も
出門無侶漫看書。    門を出づれば侶なく漫に書を看る
遥知寒食催帰騎。    遥に寒食を知り帰騎を催す
定把鴟夷載後車。    定めて鴟夷を把って後車に載せ
他日見邀須強起。    他日邀えられれば須らく強て起つべし
不応辞病似相如。    応に病を辞する相如の似かざるべく

 (此の詩は熙寧2年西暦1069年二月、蘇軾が34歳の時の作。寒食の時、柳瑾が寄せた詩に次韻したもの)

    次韻王誨夜座
愛君東閣能延客。    愛す君が東閣に能く客を延くを
顧我間官不計員。    顧う我間官にして員を計られざるを
策仗頻過知未厭。    仗を策き頻に過り未だ厭はざるを知らば
卜居相近豈辞遷。    居を卜し相い近きを豈に遷るを辞せんや
莫将詩句驚揺落。    詩句を将って揺落に驚くこと莫れ
漸喜樽罍省撲縁。    漸く喜ぶ樽罍の撲縁を省くを
但約月明池上宿。    但約す月明 池上に宿し
夜深同看水中天。    夜深けて同じく水中の天を看る

 (此の詩は熙寧3年10月、京中で作ったもの)


    次 韻張十七九日贈子由
千戈萬槊護箆籬。      千戈萬槊 箆籬を護す
九日清樽豈復持。      九日清樽 豈に復た持せんや
官事無窮何日了。      官事は窮り無く何れの日か了せん
菊花有信不吾欺。      菊花信有り 吾を欺かず
逍遥瓊館真堪羨。      逍遥瓊館 真に羨やむに堪えたり
取次塵纓未可縻。      取次に塵纓 未だ縻ぐべからず
逮此暇時須痛飲。      此の暇 時に逮で須らく痛飲すべし
他年長剣挂君頤。      他年長剣 君が頤に挂えん

  
 十月十五日観月黄楼席上次韻
中秋天気未応殊。    中秋の天気 未だ応に殊なるべからず
不用紅沙照座隅。    用いず紅沙座隅を照らすを

山上白雲横匹素。    山上の白雲 匹素を横う
水中明月臥浮図。    水中の明月 浮図に臥す
未成短棹還三峡。    未だ成さず短棹 三峡
還るを
已約軽舟泛五湖。    已に約す軽舟 五湖
泛ぶを
為問登臨好風景。    為に問う登臨 好風景

明年還憶使君無。   明年還た使君を憶うや無や
  (評論者曰く:蘇公の詩として可もなく不可もなし。未応。未成。明月。明年。還三。還憶。刊本の
誤りなし、原作の儘なれば、大病の極である。)


   台頭寺歩月得人字
風吹河漢掃微雲。   風は河漢を吹いて微雲を掃う
歩屐中庭月趁人。   中庭に歩屐すれば月は人を趁う
「シ邑」爐香始夜。  「シ邑」たる爐香 始めて夜に泛び
離離花影欲揺春。    離離たる花影 春を揺かさんと欲す
遥知金闕同情景。   遥かに知る金闕 情景を同じうするを
想見氈車輾暗塵。   想い見る氈車 暗塵に輾きるを
回首旧遊真是夢。   首を回らせば旧遊 真に是れ夢
一簪華髪岸綸巾。   一に華髪に簪して綸巾岸づ
  (紀暁嵐は此の詩を賛嘆する。曰く;五六の十四字。又、石林居士は曰く;三四句の二句。又、観奕道人は曰く;五六の二句。二大家、此のように賛嘆する。)

  次韻田国博部夫南京見寄二絶之一
歳月翩翩下坂輪。    歳月翩翩 坂を下る輪
帰来杏子已生仁。    帰り来たれば杏子 已に生仁
深紅落尽東風悪。    深紅落ち尽くして 東風悪し
柳絮楡銭不当春。    柳絮楡銭 春に当らず

  過淮三首。贈景山兼寄子由
好在長淮水。   好在なれ長淮の水
十年三往来。   十年三たび往来する
功名真已矣。   功名 真に已む矣
帰計亦悠哉。   帰計も亦た悠なる哉
今日風憐客。   今日 風は客を憐む
平時浪作堆。   平時 浪は堆を作す
晩来洪沢口。   晩来 洪沢の口
捍索響如雷。   捍索 響き雷の如し

   驪山三絶句 (其之一)
功成惟欲善持盈。     功成って惟だ欲す善く盈を侍するを
可歎前王恃太平。     歎ずべし王の恃太平を恃むを
辛苦驪山山下土。     辛苦す驪山 山下お土
阿房纔廃又華清。     阿房 纔に廃すれば又華清

   驪山三絶句 (其之二)
幾変彫牆幾変灰。     幾びか彫牆に変じて幾たびか灰に変ずる
挙烽指鹿事悠哉。     烽を挙げ鹿を指す事悠なる哉な
上皇不念前車戒。     上皇は前車の戒を念はず
却怨驪山是禍胎。     却て怨む驪山 是れ禍胎と
(三詩とも、唐の玄宗のことを詠じる。一は清華宮を言う、二は上皇を言う


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