蘇東坡詩集   四巻     目次 : 詩話

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   初到杭州寄子由二絶 (二絶之二)
聖明寛大許全身。     聖明寛大 身を全うするを許さる
翠病摧頽自畏人。     翠病 摧頽 自ら人を畏れる
莫上岡頭苦相望。     岡頭に上り苦に相い望むこと莫れ
吾方祭竈請比鄰。     吾方に竈を祭りて比鄰を請う

  (宗史によれば、王安石は東坡を恨み之を害しようとしたが、其の口実が無い。偶然、謝景温が東坡が父の憂「父の喪」に際して蜀に帰郷した時、往還に多くの舟に物資を乗せ私塩を貨売したとことを劾した。)

   次韻柳子玉 (二首之一) 紙帳
乱文亀殻細相連。    乱文亀殻 細かくして相連る
慣臥青綾恐未便。    青綾に臥するに慣れて恐くは未だ便ならず
潔似僧巾白畳布。    僧巾白畳 布よりも潔き似て
暖於蠻帳紫茸氈。    蠻帳紫茸氈よりも暖かなり
錦衾速巻持還客。    錦衾速かに巻いて持して客に還す
破屋那愁仰見天。    破屋那ぞ愁う仰いで天を見る
但恐嬌児還悪睡。    但恐くは嬌児の還た悪睡し
夜深踏裂不成眠。    夜深くして踏裂し眠を成さざるを

  (詩意: 乱文亀殻の模様がある紙は細くて連らなって帳となる。青綾被に臥するに慣れた人には、この紙帳は不便に違いないであろう。然し、紙帳は僧巾白畳布よりも潔い。蠻帳紫茸氈よりも暖かである。美しい錦の衾は、速に巻いて客に返す、破れた家に住み馴れた身は、仰いで天を見ることは心配しない。但だ恐れるのは、可愛い子が寝際あ悪く、夜更けて、踏み裂いて眠ることが出来ないことである。)

   姚屯田挽詞
京口年来耆旧衰。    京口年来耆旧衰う
高人淪喪路人悲。    高人は淪喪し路人は悲しむ
空聞韋叟一経在。    空しく聞く韋叟の一経在るを
不見恬候萬石時。    見ず恬候萬石の時
貧病只知為善楽。    貧病只知る善を為すの楽しみ
逍遥却恨棄官遅。    逍遥却って恨む官を棄つる遅きを
十年一別真如夢。    十年一別真に夢の如し
猶記蕭然痩鶴姿。    猶を記す蕭然 痩鶴の姿

  (故人姚屯田夢の中に蕭然痩鶴の姿で現れたので、柩を挽く言葉としている)

   吉祥寺賞牡丹
人老簪花不自羞。    人は老いては花を簪し自ら羞じず
花応羞上老人頭。    花は応に羞づべし老人の頭に上るを
酔帰扶路人応笑。    酔帰路に扶けられて人応に笑うべし
十里珠簾半上鈎。    十里の珠簾 半ば鈎に上す

  (煕寧五年三月二十三日、東坡は太守沈立と同じく吉祥寺に遊び牡丹を寺僧守?の圃に観る)

   和劉道原詠詩
仲尼憂世接與狂。     仲尼は世を憂い接與は狂す
蔵穀雖殊竟両亡。     蔵穀殊なりと雖も竟に両ながら亡う
呉客漫陳豪士賦。     呉客漫に陳ず豪士の賦
桓候初笑越人方。     桓候初め笑う越人の方
名高不朽終安用。     名高く朽ちざるも終に安に用いる
日飲無何計亦良。     日に飲み何もなき計も亦た良し
独掩陳編弔興廃。     独り陳編を掩うて興廃を弔う
窓前山雨夜浪浪。     窓前の山雨 夜浪浪

  (道原は史学に長じ、魏晋以後のことに於いて尤も清祥しいと言う。十国紀年42巻。通鑑外紀十巻あると言う。

   六月二十七日望湖楼酔書五絶 (其の一首)
黒雲翻墨未遮山。    黒雲墨を翻して未だ山を遮らず
白雨跳珠乱入船。    白雨珠を跳らして乱れて船に入る
巻地風来忽吹散。    地を巻き風来って忽ち吹き散ず
望湖楼下水如天。    望湖楼下 水天の如し

  (此の詩は、神宗の煕寧五年、西暦1072年。東坡が37歳、杭州に通判になった時の作)

   
夜泛西湖五絶  (其の一首)
新月生魄迹未安。    新月魄を生じ迹未まだ安からず
纔破五六漸盤桓。    纔かに五六を破り漸やく盤桓
今夜吐艶如半壁。    今夜艶を吐く半壁の如し
游人得向三更看。    游人三更に向かって看ることを得る


   是日宿水陸寺寄北山清順僧  (二首之一)
草没河堤雨暗村。    草 河堤を没して雨 村に暗く
寺蔵修竹不知門。    寺は修竹に蔵れて門を知らず
拾薪煮薬憐僧病。    薪を拾い薬を煮て僧 病を憐れみ
掃地焚香浄客魂。    地を掃い香を焚いて客魂を浄くする
農事未休侵小雪。    農事未だ休せず小雪を侵し
佛灯初上報黄昏。    佛灯初めて上り黄昏を報ず
年年漸識游居味。    年年漸く識る游居の味を
思與高人対榻論。    高人と榻を対して論ぜんことを思う

  (此の詩は煕寧五年十月の作。塩河の工事を雨中に督促し、夜、水陸寺に宿し北山の清順に寄たもの)

   送張軒民寺丞赴省試
龍飛甲子尽豪英。    龍飛の甲子尽く豪英
嘗喜吾猶及老成。    嘗て喜ぶ吾猶を老成の及ぶを
人競春蘭笑秋菊。    人は春蘭を競い秋菊を笑う
天教名月伴長庚。    天は名月をして長庚に伴はしむ
伝家各自聞詩礼。    家に伝へて各自 詩礼を聞く
與子相逢亦弟兄。    子と相逢う亦弟兄
洗眼上林看躍馬。    眼を上林に洗うて躍馬を看る
賀詩先到古宣城。    賀詩先ず到る古宣城

  (煕寧五年十一月、張軒民が貢挙省試に赴くを送った詩)

   和邵同年戯贈賈収秀才 (三首之一
傾蓋相歓一笑中。    蓋を傾けて相歓す一笑の中
従来未省馬牛風。    従来未だ省せず馬牛風
卜鄰尚可容三経。    鄰を卜して尚を三経を容るべし
投社終当作両翁。    社に投じて終に当に両翁と作るべし
古意已将蘭緝佩。    古意已に蘭を将て佩を緝い
招詞閑詠桂生叢。    招詞閑かに詠ず 桂の叢を生ずるを
此身自断天休問。    此身自ら断じて 天に問うを休めよ

  (ここの詩も、邵茂誠の詩に和して戯れに賈収に贈ったもの)

  辛老葺天慶観小園有亭北向道士山宗説乞名與詩
   (辛老の葺ける天慶観小園に亭ありに向う、道士山宗説、名と詩とを乞う)
春風欲動北風微。    春風動かんとして欲して北風微なり
帰雁亭邊送雁帰。    帰雁亭邊 雁の帰るを送る
蜀客南游家最遠。    蜀客南游 家最も遠く
呉山寒尽雪先晞。    呉山寒尽きて雪先づ晞く
扁舟去後花絮乱。    扁舟去後花絮乱
五馬来時賓従非。    五馬来る時 賓従非なり
惟有動人応不忘。    惟だ動人あって応に忘れざるべし
抱琴無語立斜暉。    琴を抱いて語るなくして斜暉にたつ

  (煕寧五年十二月の作、道士山宗説が亭の名と詩と乞うた、為に帰雁亭と題いて、この詩を添えたた)

  秀州報本禅院郷僧文長老方丈
萬里家山一夢中。     萬里の家山 一夢の
呉音漸已変児童。    呉音漸く已に児童を変ず
毎逢蜀叟談終日。    蜀叟に逢う毎に談日を終え
便覺峨眉翠掃空。    便ち覺ゆ峨眉の翠空を掃うを
師已忘言真得道。    師已に言を忘れ真に道を得る
我余捜句百無功。    我れ句を捜すを余せば百も功し
民年採薬天台去。    民年薬を採りて天台に去り
更欲題詩満浙東。    更に詩を題して浙東に満しめんと欲す

  (此の詩は郷談を開いて、故国を思う)


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