蘇東坡詩集         目次 : 詩話

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  和述古冬日牡丹 四首之一
一朶妖紅翠欲流。   一朶の妖紅 翠 流れんと欲す
春光回照雪霜羞。   春光照を回して雪霜羞づ
化工只欲呈新巧。   化工は只だ新巧を呈せんと欲し
不放間花得少休。   間花を放ち少らくも休むを得ず
  (煕寧6年10月の作。陳襄が冬日牡丹の詩に和した)

  除夜野宿常州城外。二首之一
行歌野哭両堪悲。   行歌野哭 両ながら悲しむに堪えたり
遠火低星漸向微。   遠火低星 漸く微に向かう
病眼不眠非守歳。   病眼眠らず 歳を守るにあらず
郷音無伴苦思帰。   郷音伴なく 苦に帰るを思う
重衾脚冷知霜重。   重衾脚冷かにして 霜重きを知る
新沐頭軽感髪稀。   新沐頭軽くして髪の稀なるを感ず
多謝残灯不嫌客。   多謝す残灯 客を嫌はず
孤舟一夜許相依。   孤舟一夜 相依るを許す
  (煕寧6年、東坡38歳の時。除夜に作った詩。東坡は事を以って姑蘇に至る。潤州道中で除夜に値う)


  遠楼
西山煙雨捲疎簾。    西山の煙雨 疎簾を捲く
北戸星河落短簷。    北戸の星河 短簷に落つ
不独江天解空濶。    独り江天空濶を解するのみならず
地偏心遠似陶潜。    地偏に心遠くして陶潜に似たり

   山茶
蕭蕭南山松。    蕭蕭たる南山の松
黄葉隕勁風。    黄葉 勁風に隕つ
誰憐児女花。    誰か憐む児女の花
散火氷雪中。    火を散ず氷雪の中
能伝歳寒姿。    能く歳寒の姿を伝えるは
古来惟邱翁。    古来 惟だ邱翁
趙叟得其妙。    趙叟 其の妙を得
一洗膠粉空。    膠粉を一洗して空しうする
掌中調丹砂。    掌中に丹砂を調し
染此鶴頂紅。    此の鶴頂紅を染める
何須誇落墨。    何ぞ須いん落墨に誇るを
独賞江南工。    独賞す江南の工
  (紀暁嵐曰く;四詩清歴。査初白も言う、偏能離俗と。詠物杜子美の骨髄を得れば此に至る、後進の詠物に志あるものは、此の篇を以って圭?とすべきであると。)

   和仲伯達
帰山歳月苦無多。   帰山する歳月 多き無きに苦む
尚有丹砂奈老何。   尚を丹砂あるも老を奈何せん
繍谷只応花自染。   繍谷只だ応に花自ら染むべし
鏡潭長與月相磨。   鏡潭長く月と相磨す
君方傍海看初日。   君方に海に傍うてを看
我已横江撃素波。   我已に江に横はりて素波を撃つ
人不我知斯我貴。   人 我れを知らず 斯れ我貴し
不須雷雨起龍梭。   須いず雷雨 龍梭に起るを
  (紀暁嵐曰く;太腐気と、第七句経語にて詩語ではない。蘇公が詩として劣等に属するもの。)

   春日
鳴鳩乳燕寂無声。   鳴鳩乳燕寂として声なし
日射西窓溌眼明。   日は西窓を射て眼を溌して明か
午酔醒来無一事。   午酔醒め来りて一事無く
只将春睡賞春晴。   只だ春睡を将て春晴を賞す
  (紀曰く;頗有情致、但格不高耳。無二字、春二字、蘇家一流の作法、例の如く。)

   和田仲宣見贈
頭白江南酔司馬。    頭白の江南酔司馬
寛心時復喚殷兄。    寛心時に復た殷兄を喚ぶ
寒潮不応淮無信。    寒潮 応えず淮に信なく
客路相随月有情。    客路 相随うて月に情あり
未許低頭拝東野。    未だ許さず低頭して東野を拝す
徒言飲酒勝公栄。    徒に言う飲酒は公栄に勝ると
好詩悪韻那容和。    好詩悪韻那ぞ和を容れん
刻燭応須便置?。    刻燭応に須らく便ち?を置くべし
  (紀曰く;結弩末と、名評である)

   漁父 四首之一
漁父飲。誰家去。    漁父飲んで、誰が家に去る
魚蟹一時分付。     魚蟹一時に分付す
酒無多少酔為期。    酒 多少なく酔を期と為す
彼此不論銭数。     彼此 銭数を論ぜず

   漁父 四首之二
漁父酔。蓑衣舞。    漁父酔うて、蓑衣舞う
酔裏却尋帰路。     酔裏却って帰路を尋ね
軽舟短棹任横斜。    軽舟の短棹 横斜に任す
醒後不知何処。     醒後 何れの処か知らず
  (紀曰く;四首語皆超妙、然此是長短句、不宜入之詩集と、漁父の形神共に躍如たるを見る。)

   與欧育等六人飲酒
忽驚春色二分空。    忽ち驚く春色 二分は空しきを
且看樽前半丈紅。    且く看る樽前 半丈紅なるを
苦戦知君便白羽。    苦戦知る君が白羽を便とするを
倦游憐我憶黄封。    倦游憐む我が黄封を憶うを
年来歯髪老未老。    年来歯髪 老いるや未だ老いざるや
此去江淮東復東。    此を去って江淮 東復た東
記取六人相会處。    記取す六人 相会する處
引杯看剣坐生風。    杯を引き剣を看て坐に風を生ず
  (「封」は佩文韻府二冬の韻に収める。一東の韻と通用する。)

   帰宜興留題竹西寺 (三首之一)
此身已覺都無事。   此の身已に覺ゆ都て無事
今歳仍逢大有年。   今歳仍を逢う大有年
山寺帰来聞好語。   山寺に帰来して好語を聞く
野花啼鳥亦欣然。   野花啼鳥亦欣然
  (紀曰く;点綴有味。詩中の田舎翁に就いて古来の注家、真に常州に田を買う、買は無い。肝腎の詩を批評せずに、いくら後世から探索しても分らない事を云々する。明清間の詩人の頭脳の悪いことを思い知る。東坡先生は地下にて大笑するであろう。「可可也可可也」)




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